【私の視点 観光羅針盤 210】旅行・観光競争力ランク 北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授 石森秀三


 日韓関係の泥沼化に伴って、韓国では日本製品不買運動や日本への旅行キャンセルが頻発している。その結果、8月の韓国からの旅行者数は前年同月比48%減の31万人弱。全体の訪日旅行者数も11カ月ぶりに前年実績を下回った。韓国人旅行者を最も数多く魅き寄せていた九州地域では深刻な影響が生じている。

 一方、先日ラグビーワールドカップ日本大会が開幕し、諸外国からの観覧者を迎えて各地で熱戦が繰り広げられている。札幌ドームでもフィジー対豪州戦などが行われ、外国人ビジターでにぎわっている。

 スイスの非営利財団世界経済フォーラム(WEF)は2年ごとに「旅行・観光競争力レポート」を公表しており、2019年版が話題になっている。

 世界140カ国・地域を対象にして、環境、政策、インフラ、自然・文化資源の4分野について、ビジネス環境、安全・保障、健康・衛生、人的資源・労働市場、情報通信技術の有効性、旅行・観光の優先度、国際的開放度、価格競争力、環境的持続性、航空インフラ、陸上・港湾インフラ、観光インフラ、自然資源、文化資源・ビジネス旅行などの指標にもとづいてデータを指数化し順位付けを行っている。

 19年の総合ランキングのベスト20は第1位がスペイン、以下、フランス、ドイツ、日本、米国、英国、オーストラリア、イタリア、カナダ、スイス、オーストリア、ポルトガル、中国、香港、オランダ、韓国、シンガポール、ニュージーランド、メキシコ、ノルウェーの順。日本は09年の総合ランキングが25位、11年が22位、13年が14位、15年が9位、17年に4位に躍進し、今回も4位。アジアでは堂々の第1位。

 評価指標別では、鉄道インフラ、陸上交通の便利さ、顧客対応度、衛生管理、安全・保障、文化資源などが高い評価を受けている。一方で低い評価を受けている指標項目は、査証(ビザ)発給の制約、消費価格の高さ、税率の高さ、従業員雇用の柔軟性の低さ、外国人雇用の難しさ、空港の混雑度、生物の絶滅危惧、国家ブランド戦略の妥当性など。

 日本はアジア諸国の経済発展に伴う観光客の増大に焦点を当て、インバウンド観光立国に注力して見事にアジアでナンバーワンの観光先進国になった。日本へのインバウンドは13年に1036万人、15年に2022万人、17年に2869万人と増加し、18年に3119万人を記録した。まさに驚異的増加であるが、現実にはインバウンドの約7割は東アジア地域からに限定されており、誘客の多角化が重要課題である。

 また、観光分野での人手不足が深刻化しており、インバウンド激増に伴ってサービスの質の低下が問題視されつつある。さらに日本人による国内観光旅行の低迷や観光による地方創生の停滞も懸念されている。名実共にアジアでナンバーワンの観光先進国であるためには、もっとバランスの取れた観光立国の推進が必要である。

(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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