WHO(世界保健機関)が1月末に新型コロナウイルスによる肺炎を「国際的な公衆衛生上の緊急事態」と宣言してから1カ月がたった。この間に感染者数は約10倍に急増、地域も世界五大陸に拡大した。WHOは2月末に世界全体の危険性評価を中国と同等の「非常に高い」に引き上げ「世界的流行」の認定に至った。
新型ウイルス発生源の中国では毎年3月5日に開幕される全国人民代表大会(国会に相当)の延期が決定された。国権の最高機関の開催延期は極めて異例で、新型肺炎の封じ込めに手間取っているようだ。
安倍政権は「桜を見る会」問題で窮地に立たされ、新型肺炎への危機管理でも深刻な失策を重ねて末期的症状を呈している。その上に2月末には安倍首相が唐突に全国の小中高校に一斉休校を要請したために、各方面から批判が生じている。
一方、北海道の鈴木直道知事も2月末に道内での新型ウイルスの感染拡大を受けて「緊急事態宣言」を発表した。道民に2月末の週末2日間の外出自粛を要請し、政府に道内を「重点対策地域」に指定して感染防止策を集中実施するように要望した。
しかし、国に指定を要望する「重点対策地域」については既存の制度がなく、知事独自の考えであるために実現は容易ではない。あげくに緊急事態宣言は北海道の感染状況が突出して悪化しているかのような負のイメージを生み出す危険性がある。さらに移動の自由という基本的権利に制限をかける要請を法的根拠のないままに宣言することへの批判もある。
小中高校の一斉休校要請に伴って、共働き夫婦などの子どもを預かる施設の充実化や、パートなどの保護者に対する休業補償問題も生じている。大企業では時差出勤や在宅勤務、テレワークの実施が加速しており、日本人のライフスタイルの変化を促す可能性も秘めている。
北海道知事による外出自粛要請に象徴されるように日本はいま「自粛列島化」している。プロ野球のオープン戦が始まったが、無観客での開催を余儀なくされている。さまざまなイベントが自粛され、テーマパークが休園し、博物館・美術館なども休館が相次いでいる。
民間シンクタンクの試算では、2~5月の4カ月間で個人消費が3兆8千億円程度減るとのこと。東日本大震災による個人消費の減少額は2兆6千億円と試算されており、新型肺炎の影響は全国的に広がっているために個人消費の減少幅が大きいとのこと。
新型コロナウイルスによる肺炎は東アジアを越えて中東、欧州でも深刻化しており、経済不安が一挙に拡散して、2月下旬に世界同時株安が発生している。中国経済の停滞は全世界に大きな影響を与えており、観光産業においても中国人旅行者の激減が継続されるならば、日本の観光立国へのダメージは計り知れない。新型コロナウイルス感染症の早期終息を祈るばかりである。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)