コロナ禍の拡大に伴う緊急事態宣言の下で東京五輪が7月23日に開幕する。全世界の約200の国・地域から1万人超の選手の他に、国際オリンピック委員会(IOC)やメディアなどの海外関係者約4万人が来日する。安全で安心な大会運営が実現され、全世界の若者たちがそれぞれなりにベストのパフォーマンスを発揮できるとともに、日本各地でコロナ禍の拡大が生じないように祈り続けるのみである。
いま、1人の日本人青年が米国で非常なる注目を浴びている。言うまでもなく、大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手(27歳)である。投手と打者の二刀流で優れた成績を残しているだけでなく、礼儀正しさや他者への思いやりなどの人間性も高く評価されている。英語では、decent(上品な、慎み深い、礼儀正しい、寛大な)と表現されている。米国ではいま、トランプ時代のMake America Great Againに代わって、Make America Decent Againであるべきと考えている人が増えてきているようだ。
日本の若き俊秀の斎藤幸平氏(34歳)は「人新世の『資本論』」(集英社新書2020年)と題するベストセラーを世に送り出し、「資本主義のグレートリセットが必要」と主張している。人新世(ひとしんせい)とは「人類が地球を破壊する時代」という意味であり、資本主義の本質としての「際限のない利潤追求」の結果、環境破壊に歯止めがかからず、気候劇症化やパンデミックのような世界規模の危機が生じるとともに、地球規模での貧富の格差増大が顕在化している。
斎藤氏は、先進資本主義が「人新世」の危機を前にして、「持続可能な開発目標(SDGs)」に象徴される「緑の資本主義」や「グリーン・ニューディール(GND)」で危機克服を図ろうとしていることに懐疑を表明している。資本主義社会では利潤追求のために地球上のあらゆるものが商品化されているが、水やエネルギー、医療、教育など、誰でもがそれ無しに生きていけないものは商品化すべきではなく、社会的に共有され管理されるべきという「コモンズ(共有財産管理運営)」の重要性を指摘している。
北海道新聞の報道で知ったが、北見市留辺蘂町で温泉旅館を経営する企業「夢風船」はいま温泉水を使って高級魚トラフグの陸上養殖に取り組んでいる。夢風船の工藤平史代表(29歳)は、海のない栃木県で温泉水を活用してトラフグの陸上養殖に成功した事例を知って、昨年8月から準備を進めている。現在、約150匹の稚魚が養殖されているが、餌やりや水槽の清掃などは障害者就労支援サービスの利用者が取り組んでいる。工藤代表は少子高齢化の進む留辺蘂でトラフグ養殖を成功させて、就労支援の福祉事業と地域活性化に貢献したいと考えている。
まだ試験養殖段階で、さまざまな困難が想定されるが、数千匹規模の本養殖に成功すれば「日本最北のトラフグ養殖場」になる。衰退が著しい過疎地域で若者が真摯(しんし)に地域の未来のために大活躍することは本当に素晴らしい! まさに五輪の金メダルに値する。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)