コロナ禍による緊急事態宣言下で7月23日に開幕した東京五輪では、日本の若者たちが各種競技で大活躍している。
スケートボードの女子ストリートで西矢椛選手(13)が優勝し、日本最年少の金メダリストになった。柔道では阿部一二三選手(23)と阿部詩選手(21)が兄妹で同日に金メダルを受賞し話題になった。卓球では混合ダブルスで水谷隼選手(32)と伊藤美誠選手(20)が中国の強豪ペアを破り、金メダルに輝いた。
その一方で新型コロナウイルス感染者数が過去最多を更新しており、感染力の強いインド由来のデルタ株が広がっているために、これまでで最大の流行である「第5波」の拡大に歯止めがかからない状況が継続している。このまま感染拡大が続くと、首都圏における医療体制の崩壊が危惧されている。
7月下旬にオンラインで開催されたユネスコ世界遺産委員会で、日本政府が推薦した二つの案件が審査され、二つとも世界遺産登録が正式に決定された。
まず政府が2017年に推薦した「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」の世界自然遺産登録が決定された。大陸から切り離され現在の島々が形成される過程で動植物は独自の進化を遂げ、イリオモテヤマネコやヤンバルクイナ、アマミノクロウサギなどの貴重な固有種が多く生息する生物多様性が評価された。
さらに政府が昨年1月に推薦した「北海道・北東北の縄文遺跡群」(北海道、青森、岩手、秋田)が世界文化遺産として正式に登録された。縄文遺跡群は日本を代表する大規模集落群「三内丸山遺跡」をはじめ、4道県の17の構成資産から成っている。
約1万5千年前の定住化から本格的な稲作の開始まで、東北アジアにおいて採集・漁労・狩猟を基盤として1万年以上も続いた縄文文化の変遷を示している。農耕以前における人類の生活のあり方と、世界最古級の土器や漆器、芸術性豊かな土偶などに象徴される高度で複雑な精神文化を示す物証が存在しており、採集・漁労・狩猟文化が極限まで発達したことが如実に示されている点が評価された。
コロナ禍が継続される中で、世界的に強欲資本主義、金融資本主義、市場原理主義などによる貧富の格差の拡大が厳しく批判されており、近代文明の功罪がさまざまなかたちで問題視されている。
国連は15年に総会で「持続可能な開発目標(SDGs)」を採択し、世界的課題になった。SDGsを考える上で、1万年以上にわたって自然と共生しながら、平等志向や再生志向にもとづいて安定的な暮らしを維持し、平和に生きてきた縄文人のライフスタイルから学べることが数多くある。
北の縄文遺跡の世界文化遺産登録をきっかけにして構成資産の各地域における「民産官学の協働」によって、近代文明の功罪を考える「スコーレ・ツーリズム(学び観光)」の進展に大いに期待したい。なお、「北海道・北東北の縄文遺跡群を旅するガイド」(昭文社)が8月1日に新たに出版されているので、お勧めします。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)