【私の視点 観光羅針盤 346】岸田政権と観光立国 石森秀三


 今年の「終戦の日」にこの原稿をまとめている。私は1945年10月生まれなので、戦争体験のない「戦後派」であるが、私自身は「戦腹中派」と称している。母親の胎内で戦争を感じていたからだ。私は神戸の旧武庫離宮(皇室別荘として1914年に造営、空襲で焼失)の近くで生まれ育った。戦後に旧離宮は進駐軍に接収され、射撃場となった。そのために私は幼児の時から進駐軍の兵士を身近に見て育った。

 毎年8月になると、悲しい思いが込み上げてくる。8月6日に広島に原爆が投下され、3日後に長崎にも原爆が投下された。瞬時に無差別に数多くの国民が無惨な犠牲者になった。そして8月15日に終戦を迎えた(ただし南樺太ではソ連軍の侵攻で戦闘が継続)。

 今年8月3日にペロシ米下院議長が台湾を訪問し、蔡英文総統と会談して「私たちは台湾への責任を放棄しない」と明言した。米下院議長は正副大統領に次ぐ米国ナンバー3であるために、中国は対米強硬姿勢を明確にしており、台湾周辺で大規模な軍事演習を実施した。弾道ミサイル11発を発射し、そのうち5発が日本の排他的経済水域(EEZ)に落下した。

 習近平主席は今秋の共産党大会で異例の3期目入りを目指しており、中国は政治的に重要な時期を迎えている。ウクライナ戦争が長期化する中で、台湾有事が現実化すると従米一本やりの日本は中国と軍事的に対立することになる。米中ともに一挙に戦争を仕掛けることはないが、偶発的衝突による軍事的対立の発生が恐ろしい。

 台湾をめぐる米中対立が激化する中で、8月10日に第2次岸田改造内閣が発足した。岸田首相は「有事に対応する『政策断行内閣』として、山積する課題に経験と実力を兼ね備えた閣僚を起用した」と述べているが、識者による改造内閣の評価は低い。特にポストコロナに向けて「観光立国」政策の再構築が重要課題のはずであるが、残念ながら「観光立国担当大臣」は任命されていない。本来であれば、留任した斉藤鉄夫国土交通相が特命・担当事項として「観光立国」を担うべきであるが、「水循環政策、国際園芸博覧会」しか担っていない。要するに岸田政権では「観光立国」は重要な国家的課題とはみなされていないようだ。

 岸田政権は今後、米国政府の要請に従って防衛費の大幅増額に踏み込み、敵基地攻撃能力の保有のために米国から巨額の最新兵器類の購入に勤しむことになる。陰謀論的に見ると、米国中枢を牛耳る「ディープステート(米国の軍事・経済・金融・メディア・政治を支配している軍産複合体、国際金融資本、多国籍企業)」にとって好都合な展開になるともいえる。

 ポストコロナを視野に入れた「観光立国」政策の再構築では従来の観光の量的拡大を意図したインバウンド観光立国ではなく、むしろ日本の各地域の民産官学の協働によって、地域の貴重な資源の持続可能な活用を図る自律的で上質な地域観光の推進を図るべきだ。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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