【私の視点 観光羅針盤 387】屋久島のリジェネラティブな取り組み 吉田博詞


 今年は屋久島が世界遺産登録30周年を迎える年である。世界自然遺産は日本で全5地域が登録されており、屋久島は1993年に白神山地と共に日本で最初に登録された。九州最高峰の宮之浦岳(1936メートル)を筆頭に、標高千メートルを超える山々が39以上連座しており、九州地方の高い山の1位から8位までが屋久島にあるという雄大な山々が特徴でもある。太平洋から入ってきた黒潮が台湾と与那国島の間から東シナ海に抜け、太平洋に抜けるルートに立地するのが屋久島である。黒潮からの温暖で湿った空気がこの洋上のアルプスともいわれる2千メートル級の山々にあたることで「1カ月に35日雨が降る」といわれるほど年間を通じて湿潤な気候であり、豊かな水が維持されている。

 26の集落に住む島民の数は、5月末時点で1・1万人程度と人口はじわりと減りつつも、自然を求めて国内外から訪れる人々に向けた観光が一つの大きな産業となっており、経済が支えられている。世界遺産登録は、もともと観光が目的ではなく、当時屋久島の自然の成り行きを心配した先輩方が、自然を残すための手法として登録を進め、維持できる仕組みとして考えたのがきっかけのようである。

 この屋久島において、実験的宿泊施設Sumu Yakushimaの取り組みも注目されている。「人間が自然や地球に対し、何ができるのかを対話し、行動する」学びの場としての建築空間や仕組みが評価され、世界三大デザイン賞の一つである「iF デザインアワード2023」でゴールド賞を受賞している。島をめぐる水を中心とした菌類等も含めた自然の循環モデルや、山10日、海10日、里10日といった具合に、それぞれから得られる自然の恵みを取りつくさず、ほどよいバランスでやっていこうという屋久島の先人たちの教えを、今もそのままプログラムとして伝えることを形にしようとしている。自然を別物に考えるのではなく、シンプルに「共に生きる」という共生の在り方を体感できるプログラムが出来上がっている。有名な縄文杉や白谷雲水峡といった場所だけではない、屋久島に脈々と息づく循環モデルをしっかりと体感できるのが特徴だ。

 私も参加してみたが、森との対話時間や年に数回しか見られない夜の特別見学は正直、人生観が変わったといっても過言ではない。時代に合わせてより進化する受け入れの在り方が、屋久島の大きな魅力の一つであり、今後もそれを支える人々により次の循環モデルが出来上がっていくだろう。

 現在、日本国内の五つの世界自然遺産地域の連携が加速しているという。2025年の大阪・関西万博に向けて、日本らしい自然との共生の在り方を提言できるよう準備している。自然を単に残すことが目的でなく、日本人が大事にしてきた共生という在り方をいかに一つの価値観として世界に伝えていけるかを考えている。

 自然をおそれ、崇拝しながら共に生きる在り方がよい形で伝播することで、形だけのサステナブルではないリジェネラティブが広がっていくことを期待したい。

(地域ブランディング研究所代表取締役)

 
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