【私の視点 観光羅針盤 400】人類とウォーキング 石森秀三


 直立二足歩行は、人類と他の動物を区別する人類特有の貴重な能力といわれている。樹上生活を行っていた類人猿が平地に下りて、直立二足歩行を行うようになって人類へと進化した。

 正統派進化論とは異なる独自の進化論を提唱した今西錦司(1992年没、79年文化勲章受賞)は、「ある種のサルの進化がある段階まで達したとき、その赤ん坊が立つべくして立ったのである。立つべくして立つことにより人類になったのである」と述べている。私は若かりし頃に、この今西錦司の「立つべくして立った」という禅問答的文言に魅せられ、訳のよく分からないままに人類学に関心を抱き、文化人類学を志した。

 直立二足歩行論はともあれ、現在の私は後期高齢者なので日々、人類に与えられた特質であるウォーキングを大切な日課として健康維持を心掛けている。今年9月の北海道では国際イベント「アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)」が開催され、多額の税金が投入されて、自然・文化・アクティビティをベースにした体験観光の諸課題が論じられた。

 大仰に国と地域をあげて「アドベンチャートラベル」と騒ぐ前に、それぞれの地域における各種資源を生かしたウォーキングの大切さに気づくべきである。

 例えば、札幌ではすでに「さっぽろラウンドウォーク」という事業が創始され、札幌市街地の周囲をぐるっと一周する約140キロのウォーキングコースが設定されている。「歴史と文化の田園エリア」「自然を楽しむ里山エリア」「街を眺める山手エリア」という三つのエリアに分けて、札幌が有する自然、歴史、文化の魅力を余すことなく体感できるウォーキングコースが設定されている。これらのコースは新しく建設するものではなく、誰でもが自由に歩くことができる既存の公道、緑道、自然歩道、河川敷、都市公園などをつなぎ合わせたものだ。

 「さっぽろラウンドウォーク」の実装化に当たって、コースの所有者・管理者である行政機関、コース周辺の地域住民、コース利用者、ウォーカーに各種サービスを提供する民間企業など、さまざまな利害関係者の連携協力が不可欠になる。

 この実装化をスムーズに展開するためにすでに「NPO法人ウォークラボ札幌」が設立され、ウォーキングコースの整備・維持管理のボランティア活動、ウェブサイトによる情報発信、ガイドマップの作成・販売などの事業が行われている。

 また「さっぽろラウンドウォーク憲章」がすでに提唱されている。(1)自然保護(豊かな緑と水を育む自然を感じる道とします)、(2)郷土学習(郷土を知り、守り、その誇りを伝える道とします)、(3)健康づくり(健康づくりを促進する道とします)、(4)観光資源(札幌の価値を高める観光資源としての道とします)、(5)市民協働(市民協働で守り伝える道とします)、(6)持続可能性(多くの人に親しまれ、子や孫に伝える道とします)。

 歩くことによって、歴史・文化・自然など世界に誇れる財産を再発見・再認識するとともに、自然環境の保全、地域活性化、観光振興、郷土学習、健康づくりへの貢献を目指している「ウォークラボ札幌」の今後のさらなる活動に期待したい。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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