世界的に「カオス(混沌)の時代」を迎えており、次に何が起こるか不安である。そういう状況の中で今、ワンヘルス(One Health)への関心が高まっている。ワンヘルスとは「人の健康、動物の健康、環境(生態系)の健康」を一つの健康ととらえて、一体的に守っていくという考え方だ。地球上の人間が健康に暮らしていくためには、地球に暮らす動物も、地球環境(生態系)も健康であることが不可欠という考え方に基づいている。
2004年に米国で開催された「One World’One Health」と題した国際会議が端緒であった。この会議は、WHO(世界保健機関)、FAO(世界食糧農業機関)、WCS(野生生物保全協会)、CDC(米国疾病予防管理センター)などの主催だった。この会議の中心テーマは「動物由来感染症(人獣共通感染症)」であった。
野生動物から家畜や人に感染する動物由来感染症は、自然破壊と深い関わりがある。大規模開発による森林の消失によって、人間が自然の奥地に侵入し、感染症の病原体を持つ野生動物と接触。その後に感染した人間や家畜や野生動物が別の場所に移動し、新たな感染を広げるとともに、ウイルスも変異を繰り返す。さらに気候変動(世界温暖化)の影響などが加わることによって、パンデミック(世界的流行)の発生が起こる。
2019年に発生した動物由来感染症としての新型コロナウイルスによるパンデミックは、世界人口(約80億人)の13分の1に相当する6億人以上の感染者と680万人以上の死者が犠牲となった。さらに言うまでもなく、観光産業は壊滅的なダメージを受けた。
日本でも、政府はすでに人間と動物、それを取り巻く環境(生態系)は相互につながっていると包括的に捉え、関係者が緊密な協力関係を構築し、分野横断的な課題の解決のために活動を行っている。具体的には厚生労働省は人獣共通感染症や食の安全、農林水産省は家畜の伝染性疾患や衛生的な家畜生産、環境省は地球温暖化対策や生物多様性保全などを行いながら、連携協力を進めている。
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