【私の視点 観光羅針盤 439】花火大会の特徴と伝承 吉田博詞


 夏になり花火シーズンが到来した。東京の「足立の花火」が急きょ荒天により中止になったことで話題になった中で、翌週の「隅田川花火大会」の開催に気をもんだが、そもそもなぜ日本の花火大会は夏が多いのだろうか? 歴史や特徴に関してひも解いてみたい。

 まず、日本への花火の伝来は文永11(1274)年の蒙古軍の襲来で武器としての火薬が伝わったことによるという。家康が中国人によって打ち上げられた花火をみたことから、江戸時代になると花火鑑賞が始まったとされている。花火大会の歴史をみると、享保17(1732)年に発生した享保の大飢饉(ききん)で多くの餓死者が出て、疫病まで流行した。このことに対する犠牲者への慰霊と疫病退散を願って、翌年に8代将軍吉宗が開催した水神祭が由来とされ、その後、両国橋周辺の料理屋が許可により花火を上げたことが始まりとされている。

 この歴史からも分かるように日本の花火には慰霊や疫病退散の意味があるとされ、死者の魂を招くお盆の「迎え火」や「送り火」の一種として捉えている地域も多いといわれている。夏やお盆に花火大会が多いのもこれらが背景になるとみてよいだろう。毎年8月2、3日に行われる新潟県の「長岡まつり」は、1945年の8月1日の長岡空襲からの復興を願って翌年から行われたものが始まりであり、毎年8月のお盆に行われる和歌山県の「熊野大花火大会」は、先祖の霊を導く迎え火・送り火として開催されている。海外ではお祭りやお祝い事の際に花火が打ち上げられることが多いが、日本の花火大会はこれらの歴史的背景や意味合いを持つことが一つの特徴として捉えてもいいだろう。

 また、実際の花火自体の違いもみてみたい。日本の花火は球形に広がり、一つの円ではなく、花の芯のように二重三重と同心球を描くことや、星といわれる空中で光る火薬の色が途中で変わるかわり玉等が特徴としてあげられる。まさしく、日本の職人技といえるものである。もともと和火というものは単色であったが、明治以降海外からさまざまな発色技術が導入され、現在の構成になった。それに対して海外では円筒状の一つの方向に飛び出るスタイルが多く、スターマインのような連続発射となり、色は火薬を1種類しか使わないため単色のものが多いが、明るさはあるのが特徴といえる。

 近年は猛暑での豪雨等の影響もあり、開催時期の変更をする地域もあるが、歴史的な背景や意味合いを正しく理解した上で文化の伝承がされることも期待される。花火の製造会社は全国で100社強とされ、年間120億円程度であった業界の売り上げは、コロナ禍で半分以下に落ち込んだものの、現在は回復基調とされている。ただ、広島県の「宮島水中花火大会」のように警備の問題等から打ち切りが決まってしまったものも多い。日本の一つの文化的な背景がある特徴的な産業として位置づけ、時代の流れに即した形での進化をして残っていくことを願いたい。

(地域ブランディング研究所代表取締役)

 
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