
第2次トランプ政権の発足に伴って、全世界が予測不能な大激動期に突入している。もはや日本は政治・経済の面で世界を動かすパワーを失っているので、ジタバタせずに冷静に自らの足元を見直すべきだ。
日本ではあまり知られていないが、3月20日は国際連合が定めた「国際幸福デー」だ。国連は2012年の総会で193カ国の加盟国が満場一致で「国際幸福デー」を採択した。幸福やウェルビーイングの啓発・促進が目的である。
国連関連機関「持続可能な開発ソリューションネットワーク(SDSN)」は12年から毎年「世界幸福度ランキング」を公表。調査対象は世界の約150カ国で、調査内容は(1)1人当たりGDP(2)社会保障制度などの社会的支援(3)健康寿命(4)人生の自由度(5)他者への寛容度(6)国への信頼度―など。対象国・地域の約千人を対象に面接調査を行い、評価している。
25年の総合ランキングのベスト5は、(1)フィンランド(2)デンマーク(3)アイスランド(4)スウェーデン(5)オランダ。フィンランドは8年連続で第1位。消費税(24%)は高額であるが、収めた税金が社会保障として還元され、政治の透明性や富の再分配が実現されるとともに、子育て支援が充実し、個々人が自由な道を選べる環境が整っている。北欧を中心にして欧州諸国は社会保障制度の充実、質の高い教育制度、男女平等などが評価されている。
日本の順位は55位で先進諸国では最下位。アジアでは台湾27位、シンガポール34位、ベトナム46位、タイ49位、フィリピン57位、韓国58位、マレーシア64位、中国68位など。日本は1人当たりGDPが世界的に最上位で、社会保障制度もそれなりに充実しており、健康寿命も高く、治安が良くて暮らしやすいはずであるが、主観的な幸福度は低い。その理由は「人生の自由度」と「他者への寛容さ」にある。日本では貧富の格差によって学業や就業において選択の幅が限られており、男女格差でも先進諸国で最下位だ。
ハーバード大学の調査では、人の幸福度に最も影響を与えるのは「温かな人間関係」と結論づけられている。温かな人間関係を築く上で重要になるのは、自分と意見が違う人や立場が異なる人に対して、どれだけ理解を示すことができるかという「他者への寛容さ」である。日本では寄付やボランティア活動などが積極的に実現できていない点も影響している。
幸福度トップのフィンランドではライフスタイルそのものが魅力的な観光資源になり、世界中から人々を引きつけている。ライフスタイルに根ざしたサウナやデザイン分野に力点を置いた観光が好評である。
日本でも「観光の量的拡大」「インバウンド・富裕層重視」「稼ぐ観光重視」一辺倒ではなく、それぞれの地域における暮らし観光に力点を置いた「観光の質的向上」を重視する観光振興に方向転換すべきだ。従来の「観光(地域の光を観る)」だけでなく、「歓交(ホストとゲストの温かい交流)」「感幸(ホストとゲストが共に幸せを感じる)」など、地域の民産官学の協働で「無理しない観光(流通経済大学の福井一喜氏による提唱)」の実践によって、それぞれの地域なりに幸福度の向上に期待したい。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)
(観光経済新聞2025年4月14日号掲載コラム)