DMOを核として観光地域づくり、すなわち地域が豊かになるための観光地域経営に取り組む時、前回述べたようにこれまでの観光のやり方を総括することが不可欠だ。その際、マーケティングに基づく集客戦略は重要な課題になる。
言うまでもなく、マーケティングとは、地域の強みと顧客のニーズをうまくマッチさせる方法を見いだしながら地域と顧客の二つの満足を両立させる活動だ。だから、地域にとって大事だと思う顧客像を知ることは、マーケティングの第1歩となる。
顧客像をきちっと把握するには、勘などの感覚的な議論だけでは不十分だ。科学的なアプローチによりデータを集め、それをもとに分析することが必要。かといって、これまでの観光地入込客数だけでは顧客像を知ることはできない。
このような総括に立って、長野県では昨年度マーケティング調査のあり方について全面的に見直した。ちょうど、これまでの観光協会を日本版DMO候補法人である「一般社団法人長野県観光機構」に改組するタイミングだった。
そのために、マーケティング局長として地元の地銀である八十二銀行から深山達也さんを採用した。彼は、それまで県や観光協会が収集していたデータを全て洗い出し、DMOとして観光地経営に必要な調査はどうあるべきか、整理した。
まず、観光地利用者統計調査や外国人延べ宿泊者数調査など県が独自で調査している既存データを見直した。併せて、観光戦略に反映させ、効果的なプロモーションなどの集客戦略に役立てるために新たに三つの調査に取り組むことにした。
一つは、観光庁が「DMOの手引き」などで推奨する満足度調査だ。二つ目は、首都圏などに対するインターネットによる潜在ニーズ調査で、三つ目は、REASASなどビッグデータを活用した訪日外国人客の周遊ルートに関する実態調査だ。この中でとりわけ重視したのが、観光客との対面による満足度調査だ。調査用紙をあらかじめ用意し、県内10地域に分けた地点で観光客の属性はもちろん、満足度や紹介意向度、再来訪意向度、1人当たり観光消費額を直接ヒアリングした。
ヒアリングにあたっては、業者に丸投げせずに、深山局長をはじめ観光機構職員や地域DMO職員など関係者が自ら調査にあたった。最初は「そんな暇はない」などの意見もあったが、生の声を聴くことが大事だと理解してもらった。
その結果、観光地や施設に対するクレームを直接受けるなど苦労も多かったが、「観光関係者が自ら調査にあたることで、顧客像を具体的に知ると共に、観光の課題を肌で実感し、皆で共有できた」(深山局長)という。
県の観光戦略アドバイザーを務める筆者は、マーケティングの第1歩は自ら汗をかいてデータを集めることにより、マーケティング意識を高めることだと、確信している。長野県は、DMOを核とした観光地域経営に大きく踏み出した。
(大正大学地域構想研究所教授)