【私の視点 観光羅針盤118】未来を切り開く祭典 石森秀三


 ユネスコは2004年から「創造都市ネットワーク」事業を行っている。この事業は、グローバル化の進展によって固有文化の消失が危惧される中で、文化の多様性を保持すると共に、世界各地の文化産業や創造産業が潜在的に有している可能性を都市間の戦略的連携で最大限に発揮させるためのネットワーク形成を意図している。

 ユネスコは創造産業の7分野(文学、映画、音楽、工芸、デザイン、メディアアート、食文化)で「創造都市」の認定を行っている。

 札幌市は13年にメディアアート分野で創造都市と認定されている。その札幌市で10月5日から15日までの会期で未来を切り拓く祭典「No Maps 2017」が開催されている。No Mapsは「地図のない大地を切り拓く」という意味を込めた、未来を切り拓いていこうという志を持つ人たちの祭典。

 実行委員長は伊藤博之氏(クリプトン・フューチャー・メディア代表取締役)である。伊藤氏は音声合成ソフトウェア「初音ミク」を創出したことで世界的に著名なクリエイターだ。

 伊藤氏は「未来を自らの手で創ろうとする人」をクリエイターと定義づけており、映画製作者、作曲家、ゲーム開発者だけでなく、今まで以上においしい野菜を創る人、魅力的な観光地を創る人、新たなビジネスモデルを創る人、先端技術やアイデアを駆使して住み良い社会を創る人など、今よりも未来がより素晴らしい社会であるために何かを創っている人たちは、その対象がモノであれ、サービスであれ、システムであれ、あるいは人の心のような形のないものであっても、みなクリエイターとみなし、No Mapsの対象者とみなしている。

 No Mapsは「未来をもっと良くしたい、面白くしたい」という志を持つクリエイターが集まり、自分たちが創り出しているモノやコトを広く発信、同じような志を持つクリエイターと意見を交わし、その刺激を新たなビジネスや活動へとつなげていく祭典だ。

 先端テクノロジーや斬新なアイデアを核とした「新しい価値・文化・社会の姿」を提案するコンテンツやビジネスをテーマに、シンポジウム・ワークショップ・ピッチコンテストを行う「会議」、先端技術に触れられる「展示」、エンターテインメントとして楽しめる「興行」、集う人たちのネットワーキングの場になる「交流」、各種の実証実験を行う「実験」、という五つの事業によって、新たなビジネスを生み出し、加速させるための場が数多く設けられている。

 No Mapsは昨年プレ開催が行われ、今年が第1回となる本格開催である。札幌を起点にして動き出している新たな価値創出の場としてのNo Mapsには観光分野も含まれており、観光関係者にとっても得ることの多い祭典になるはずである。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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