政府は昨年12月下旬に2018年度予算案を閣議決定した。一般会計の総額は97兆7128億円で、当初予算としては過去最大規模となった。特に防衛予算は6年連続増加の5兆1911億円となり、過去最大を更新した。北朝鮮の核・ミサイル開発による脅威、中国の海洋進出への対抗などのために防衛予算は膨らむ一方になっている。
政府はこれまで防衛予算の対国内総生産(GDP)比1%にこだわってきたが、安倍晋三首相は「真に必要な防衛力のあるべき姿を見定める」と述べて、GDP比1%にこだわらない考えを示している。
北朝鮮に対するミサイル防衛(MD)を強化する地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」は当初1基800億円とされていた取得予算が1千億円に修正されている。北朝鮮の脅威は現実化しているが、さりとて対北のMDにいかに巨額予算を投じても完璧な迎撃は不可能であろう。
北朝鮮が同時に複数のミサイルを発射した場合、全てを迎撃するのは容易ではない。その上にこれらの最新鋭の防衛機器は米国側の見積もり額に基づく前払いが求められ、事実上の「言い値」で買わされているという批判もある。一方で、20年にインバウンド4千万人を実現するための観光予算は前年比18%増の248億円が配分されている。観光予算の増加は結構なことだが、防衛予算との比較で見るとあまりにも少ない予算であることが明白だ。
防衛省は来年度にオスプレイ(垂直離着陸機)4機を購入予定で457億円の予算を組んでおり、1機当たり114億円だ。要するに政府の観光予算はオスプレイ2機分程度ということになる。観光消費による税収効果は国税と地方税を合わせて4兆円以上と推計されていることを考慮すると、あまりにも観光予算が少額過ぎると言わざるを得ない。
19年1月から国際観光旅客税が実施され、日本から出国する2歳以上の人から1人千円徴収して観光振興に充てることになっている。されど出国者数が4500万人と予測しても、その額はオスプレイ4機分の購入予算程度に過ぎない。
北朝鮮や中国の脅威に対抗して日本の防衛力強化は不可欠だが、一方で緊張緩和の外交努力や観光交流による相互理解の促進も必要不可欠だ。
北海道大学メディア・ツーリズム研究センターは昨年12月にソウル大学平和統一研究院や広島大学平和科学研究センターなどと連携して、「平和観光研究の可能性」と題する国際シンポジウムを開催している。軍事的な防衛力の強化だけでなく、民産官学の協働によって観光による文化的安全保障の強化に尽力すべきである。
観光産業は、「平和産業(Peace Industry)」であることを国民に対してもっと積極的にアピールすべきだ。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)