冬の到来が足音を早めるこの季節、恋しくなるのが鍋料理。食材を切って皿に盛るだけという、調理の手軽さもありがたい。最近は鍋用のカット野菜なんかも売っていて、時短に貢献してくれる。味付けや具材で、まるで違う鍋になるのもうれしい。先日、二夜連続で鍋を囲んだが、鶏鍋と豚バラ肉のキムチ鍋ではまったく別モノ。締めはそれぞれラーメンと卵入り雑炊にしたが、コレも色々なバリエーションが楽しめる。
この鶏鍋、秋田土産にいただいた、ボトル入りの「比内地鶏スープ」で味を付けた。比内地鶏のガラと肉からとったダシに、お醤油などで調味したもの。鶏の脂もしっかり入っていて、旨味とコクがある。地元ではこのスープで「きりたんぽ鍋」を食べるんだろうなぁと、かつて現地でいただいたその鍋に思いを馳せた。
秋田の郷土料理の代表「きりたんぽ鍋」には、名古屋コーチン・薩摩地鶏と並んで日本三大地鶏の一つとされる、比内地鶏が欠かせない。
ルーツは江戸時代から同県北部比内地方で飼われていた天然記念物の比内鶏で、現在では主に観賞用として維持されている。その肉質や食味の良さを残し食肉用に改良された秋田比内鶏の雄と、ロード種の雌を交配させたものが、食肉として流通している「比内地鶏」なのだ。
さて、「きりたんぽ鍋」に話を戻そう。この鍋の主役「きりたんぽ」とは、すりつぶしたご飯を杉の棒に竹輪状に巻きつけて焼いた「たんぽ」を切ったもの。槍の稽古をする際に使う、綿などを布や皮に包んで先につけた「たんぽ槍」に形状が似ているから「たんぽ」と呼ばれるのだそう。
「きりたんぽ」自体の起源は、木こりやマタギが山に入る際、残り飯で作って携行したという説や、山の神様に供えるために作ったものとする説など諸説あり、これを入れた「きりたんぽ鍋」の発祥は秋田県鹿角市と言われている。
確かに、山菜やキノコを採りに山に入る「山子」と呼ばれるプロの多い鹿角市は、発祥地と言えそうだ。
明治中期頃、大館市内の料亭や旅館が「きりたんぽ鍋」をお客さまに提供し始めたという。大館市は比内地鶏の産地。肉の味が濃く、イノシン酸が多いため旨味が強い比内地鶏を鍋に入れれば、当然ウマイ。鍋料理として具材や味が確立し、大館市が本場の地位を獲得したというワケだ。本場には定義があり、比内地鶏の鶏ガラから取ったダシに、具材はたんぽのほか、比内地鶏の肉や内臓・セリ・キノコ・ささがきゴボウ・ネギを入れる等、細かく定められているそうだ。
筆者が何度かいただいたのは、山菜やキノコ類を扱う鹿角市ヤマヨフーズの児玉良三専務が、地元飲食店で特別にご用意下さったもの。比内地鶏は噛むほどに味が出て美味だが、挽肉の団子は香味野菜が一層鶏の旨味を引き立て、さらに絶品。ダシが滲み込んだきりたんぽ、心にもジュワ~ッと滲みる温かさ。やっぱり寒い季節は鍋に限る。また食べに行きたいな。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。