先日、福岡市博多区中洲の「博多名代 吉塚うなぎ屋」に伺った。約160席もあるのに、いつ行っても行列ができている人気ぶりで、多い時には1日千人のお客さまが訪れるという。昨年博多祇園山笠の時にお邪魔したが、今回は様子が違う。メニューに何やら断り書きが貼り付けてあり、次のように書かれていた。「現在、全国的に鰻が大変不足しております。その為、蒲焼き・お重共に、お一人さま、最大4切れまでと制限をさせて頂いております」
「素焼」と呼ばれる大好物の白焼きも、人気の肝焼きも、現在中止しているとのこと。楽しみだったのになぁ…と残念でならない。しかし、そんな個人的な感想を述べている場合ではないほど、うなぎの置かれている現状は厳しいのだ。
われわれが食しているニホンウナギは絶滅危惧種に指定されており、天然物は1%に満たないとされる。ご存知の通り、その生態はいまだ全容が解明されておらず、2010年に世界で初めて完全養殖に成功したものの、莫大なコストが掛かるなどもろもろ問題があり、量産・商業化への道は遠い。だから、稚魚を捕獲して養殖するしかないワケだが、このところシラスウナギがまったく獲れないのだ。
日本での漁期は11月から3月頃なのだが、今期は1月中旬までの漁獲量が1トンに満たず、深刻な不漁なのだという。海外からの輸入量も大幅に減り、稚魚の量は国内外合わせても前期のわずか100分の1程度といわれる。
最も需要の多い夏の土用の丑の日に出荷するには、冬の間に稚魚を確保し養殖を始める必要があるそうだが、現時点で新規の池入れがほとんどないという。当然、取引価格も跳ね上がっているらしい。
「吉塚うなぎ屋」德安憲一会長も、「お一人さま4切れは、苦肉の策。仕入れ価格の高騰より、うなぎそのものがなくなってしまうことの方が心配」と顔を曇らせる。
できれば値上げはしたくないと踏ん張っていたもののこらえ切れず、3月1日からの価格改定を発表した。創業明治6年の同店だが、いまだかつてこれだけうなぎの確保に苦労したことはないそうだ。
ニホンウナギは、マリアナ諸島沖で生まれ、黒潮に乗って遠路はるばる日本までやって来る。近年、この潮の流れが変化していることや、河川の環境破壊、さらには乱獲がうなぎ激減の原因と言われているが、これとて定かではない。
同店では個室に万葉時代の色の名を付けており、その由来を記した栞に、うなぎが夏痩せに良いとする『万葉集』の歌が紹介されている。うなぎは日本古来の大切な食文化なのだ。絶滅させないために食べないというのでは、食文化は守れず本末転倒だ。痛しかゆしといったところか。
腹開きで蒸さずに焼く関西風の同店の蒲焼は香ばしく、ほんのり甘い創業以来門外不出の秘伝のタレと相まって、ムチャクチャ美味。数量を気にせずいただける日が早く来ることを、祈るばかりである。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。
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