前号で、「ハワイ・リージョナル・キュイジーヌ」の巨匠、ロイ・ヤマグチ氏とそのお料理についてご紹介した。ビーチハウスでのランチだったが、枝豆の味付けに七味唐辛子を使うなど、日本で生まれ育った彼ならではのテイストを味わうことができた。
もう1人の巨匠の店「アラン・ウォンズ・ホノルル」では、5皿で構成されたテイスティング・メニューをマッチング・ワインと共に堪能させていただいた。
まずは、同氏みずからが一番人気のメニューだと胸を張る「スープ&サンドイッチ」。サンドイッチが1品目だなんて…? と思ってしまうが、提供されたのは予想をはるかに超える前菜であった。冷たいトマトスープが入ったカクテルグラスに、薄く焼いたグリルドチーズがふたのように載せられ、その上に小さなサンドイッチが。中身は、フォアグラとカルア・ピッグだ。
カルア・ピッグというのは、昔から宴席で食されてきたハワイの伝統料理で、地面に掘った穴に焼いた溶岩などを入れ、バナナの葉で包んだ豚を蒸し焼きにしたもの。本来豚を丸ごと1頭使ったが、イマドキは家庭でもブロック肉をオーブンで調理するそう。
割いたカルア・ピッグとフォアグラの濃厚さがベストマッチ。パリパリのチーズとの食感の差が絶妙。スープはピリ辛でインパクトが強い。これからのお料理に期待ができる一皿。
ガーリック・トマトソースが美味な、ハワイ島ケアホレ産ロブスターと海老のラザニアを挟んで、やはり看板メニューのお魚料理「ジンジャー・クラステッド・オナガ」。ショウガの衣をまとった尾長鯛とでも言おうか。黒ゴマがちりばめられた、味噌とゴマの白いソースが敷かれ、鯛の切り身の上にはショウガとネギのみじん切り、その上に黄色い花弁(はなびら)のようなものが飾ってあった。これは何なのかと尋ねると、コーンの花だと言う。トウモロコシって、お花あったっけ? と思いつつ、帰国後に調べてみたら、確かに雄花と雌花が存在した。一番下にはキノコとNozawa Farmというカフクにある農場のトウモロコシ。酸味と甘みのある繊細かつ上品なソースの味が、さすが天才シェフと言わしめる逸品だ。
メインのショートリブは、おしょうゆで蒸し煮にした後にグリルしたもの。ショートリブのほぐし身入りコロッケとコチュジャン・ソースが添えてある。2度火を通してあるから、ショートリブはホロホロに軟らかく、パンチの効いたソースと口に運べば至福の時。お茶碗に盛られた白飯も運ばれて来たが、確かにごはんに合う味だからうれしい。
ハワイの先住民族は「アフプアア」と呼ばれる共同体で、自給自足の生活をしていたという。地元食材を使用することで生産者をサポートし、そんな持続可能な未来を築きたいという同氏。ハワイの料理界のために後進の育成にも力を入れているそうだ。素晴らしいシェフが日本人のDNAを持っていることに、誇りを感じた筆者である。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。
スープ&サンドイッチ
ロブスターと海老のラザニア
ジンジャー・クラステッド・オナガ
ショートリブ