【竹内美樹の口福のおすそわけ 220】漁業界に革命を! 第1話 竹内美樹


イワシの薄造り

 我田引水(がでんいんすい)になるが、先日筆者が役員を務める株式会社雅の飲食店「神田明神下みやび本店」で開催した「北国十勝の賞味会」についてご報告したい。主役は十勝港に水揚げされる「大トロいわし」。たかが鰯(いわし)と侮るなかれ。参加者全員が「こんなのはじめて!」と驚嘆したおいしさなのだ。

 特定の貴重な食材をお客さまにご紹介すべく、通常のお料理と違う特別コースを組み、期間限定で開催する賞味会。今回この鰯を主役にしたのは、遭遇率が数千匹に1匹と言われるめったに出会えない魚だから。

 北海道では、鰯の漁期が7月から10月末日までと国で定められており、産卵前でものすごく脂が乗った鰯は、9月以降のひと月半の間にしか取れないのだ。中でも大羽サイズと呼ばれる120グラム前後のものをはるかに超える、170グラム以上の魚体のみを選別した「大トロいわし」がいかに希少なものか、お分かりいただけるだろう。しかも、その脂ノリは半端ではない。一般的な鰯の体内の脂の含有量は10~15%程度と言われるが、この「大トロいわし」の脂肪含有量は23~28%以上もあり、マグロで言えば大トロのような味わい。試食の際、薄造りをいただいてみたが、口に入れた瞬間に溶けてしまったくらいだ。

 だが、読んで字の如く非常に弱い鰯を、東京まで輸送するのは至難の業。空輸しても食べられるまでに中3日はかかってしまう。鮮度を保ったまま全国各地に届けるには、冷凍しかない。冷凍でも生よりおいしくできる技術があれば、漁業界に革命を起こせるだろう…そんな思いで立ち上げられたブランドが、レボリューション(革命)とフィッシュ(魚)を掛け合わせた「RevoFish」だ。

 普通なら、冷凍の魚なんて食べたくないと思ってしまうが、コレはまったく別物だ。美味な冷凍魚の実現を可能にしたのは、最新の急速冷凍技術。コンベアに載った魚がトンネル型の冷凍機を通ると、液体窒素の冷風がかかって凍る仕組みである。通常冷凍だと、魚の中の水分がジワジワ凍っていくため、水分が膨張して身の細胞を破壊するので、解凍するとドリップが出て、旨味も一緒に逃げてしまう。だが、この急速冷凍なら細胞壁を壊さずに済むためドリップも出ず、プロの料理人が口にしても生との違いが分からないほど新鮮で美味。

 「RevoFish」を製造販売するのは、池下産業株式会社。もともと鰯やサバなどを使った水産用飼料や有機肥料、魚油などの製造・販売メーカーだ。

 鰯はこうした製品の原料としか考えていなかったと話すのは、池下藤吉郎会長。数年前、鰯を取りに来た漁師が、それを箱詰めして地元に送っているのを見て不思議に思い尋ねたところ、秋に道東沖で取れる鰯のおいしさは別格なのだと聞き、ブランド化を目指したと言う。厳選した魚を、獲れたての鮮度で通年味わっていただきたいという思いから生まれたプレミアム冷凍ブランド「RevoFish」。次号に続く。

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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