前回に続き、池下産業株式会社「RevoFish」ブランド第1弾の「大トロいわし」について。限られた時期しか漁獲できない希少な魚を取れたての鮮度をキープし急速冷凍。通年安定供給が可能になり、おいしさを遠方のわれわれも享受できるようになった。
傷が付かないよう、特注の真空パックに1尾ずつ丁寧に包まれた鰯(いわし)は、同社で扱うニシンと見まがうほどの超特大サイズ。魚を原料にした飼料工場があるため、ぜいたくにも大きい物だけ選別できるのが、普通の水産加工場にはない強みだ。
そんなプレミアムな鰯のブランディングを手掛けたのは、1次産業の活性化を1番の目標に掲げるデザイン・ブランディングカンパニー、株式会社ファームステッド。農家のシンボルマークや6次化対応のパッケージデザイン、販路開拓に向けたブランド作りなど「地方にこそデザインのチカラを!」というビジョンで活動中だ。共同代表の阿部岳氏、長岡淳一氏は、池下産業と同じ十勝管内の出身である。
「神田明神下みやび」のデザインワークを長年依頼している阿部氏のご縁で実現したこの賞味会。同ブランドから「大トロいわし」のほか、ニシンや本シシャモも登場するコースをご用意。まずはニシンの軽い薫製、大トロいわしのマリネ、本シシャモの一夜干しなどを彩り野菜と盛り合わせた前菜。小さなガラスのふたを開けると、スモークの香りの煙が出てくる演出で、中に入るニシンの薫製はとろける味わい。
続く大トロいわしの薄作りは、ネーミング通りの脂ノリと旨味にもん絶する参加者続出。口に入れた瞬間溶けてしまうのは、融点が低い良い脂である証拠。あわび茸にしん詰め、シシャモの磯辺揚げなど天ぷらを挟み、おしのぎの江戸前にぎり。昆布締めを軽く炙(あぶ)ったニシン、大トロいわしはストレートで。どちらも赤酢のシャリの旨味と相性抜群。
次は洋皿で、大トロいわしのパイ包み焼き。サクサクのパイ生地と、その中で蒸し焼き状態になりふんわりした食感の鰯とのコントラストが絶妙な1皿。さらに変化球で「にしん油淋(ユーリン)ソース」と題した中華の一品。背の部分はカリッと揚げ、腹側は巻いてしっとり仕上げ、青さんしょうと豆板醤(トウバンジャン)を味と香りのアクセントに。ニシンってこんなにおいしい魚だったのねと感激。
そして大トロいわしのつみれ鍋。1人前の小鍋にヘラでつみれを落とし、待つことしばし。浮き上がってきたそれは、まさにふわトロ。締めは大トロいわしのかば焼飯。かば焼のタレと鰯のうまみの相乗効果で、おなかがいっぱいなのにイケてしまう。
こうしたイベントは、お客さまに喜んでいただけるのでおススメだ。手前味噌だが、今回は皆さまから大絶賛のお声を頂戴した。普段と違った料理に挑戦し、可能な限り小骨を抜くなど、調理人の惜しみない努力はもちろんのこと、素晴らしい食材があればこそ。感謝の気持ちで一杯だ。漁業界の革命「RevoFish」をご存知ない方に、ぜひ広めていきたい。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。
天麩羅
江戸前にぎり
大トロいわしのパイ包み焼
大トロいわしのつみれ
大トロいわしのかば焼き飯