【竹内美樹の口福のおすそわけ 222】香るお料理 竹内美樹


金沙龍蝦

 先日、中国料理研究家の瀧満里子先生が主催されている「香饗乃集い」に参加させていただいた。長年続いているこの美食会、131回目の会場となったのは、創業90周年を迎えた「ホテル雅叙園東京」であった。前身の目黒雅叙園のルーツは、創業者の自宅を改築した料亭だったそうで、日本料理だけでなく本格的な北京料理をメインにしていたため、中国料理とは深い縁があるという。

 代表取締役社長本中野真氏の指揮の下、「日本美のミュージアムホテル」としてリブランドしてから1周年。東京都指定有形文化財「百段階段」や螺鈿(らでん)に彩られた現存最古の回転テーブルなどを有し、「昭和の竜宮城」とうたわれた絢爛(けんらん)豪華な設えや装飾は、まさに歴史と美が織り成すミュージアムである。

 会食場は、昔の内装が復元された「竹林の間」。花の描かれた折上格(おりあげごう)天井と「竹林の七賢」の彫刻が施された床柱が印象的な75畳の和室にカーペットが敷かれ、テーブルがセットされていた。正座が苦手な人にも優しい、おもてなしの心に満ちたぜいたくな空間で堪能したのは、エグゼクティブ・シェフ・アドバイザー近藤紳二氏監修の、「香り」がテーマの特別コース。

 前菜「特式冷盆」は、ワタリガニの紹興酒(しょうこうしゅ)漬けやトリュフのエスプーマソースが掛かったクラゲなど、香り高い7種のお料理の盛り合わせ。続く「桜花獅子頭」は、揚州(ようしゅう)名物の大きな肉団子「獅子頭」をスープ仕立てにし、桜の香りの薄いお餅を載せたもの。そして、おごそかに銀器が運ばれてきた。ヨシキリザメのフカヒレ姿煮込みだ。キャビアも添えてあり、なんともゴージャス。

 このお料理の香りの演出は、輪切りのライム。さわやかな香りと酸味が、コクのあるソースにアクセントを添えていた。

 御献立に「金沙龍蝦」と書かれた次の1皿、日本語の表記は「脱皮伊勢海老金沙香り味」。いわゆるソフトシェルの伊勢エビの殻は、おせんべいのようにパリッパリ。中華料理によく登場する「金沙」とは、パン粉をカリカリにして味を付けたもの。シェフによって使う香辛料が違うから、味も香りも店によって異なるが、この金沙は優しいお味で、サクサク感が脱皮伊勢エビと見事にマッチ。

 鴨胸肉クルミのチップの薫製は、ガラスのふたを開けるとスモークの煙が出て、会場全体が薫香に包まれた。その後、熱々の土鍋でハマグリと青梗菜(ちんげんさい)を炒めるパフォーマンスがあり、仕上げに目の前でカラスミを削り入れると、参加者のボルテージも上がる。そしてメインはA5の和牛フィレ肉とペリゴール産フォアグラのステーキ。トリュフソースの上から生のトリュフが削られ、究極の逸品が供された。

 「香饗乃集い」は20年、それ以前から通算すると実に40年もの間、多くのグルマンをうならせる美食会をコーディネートされてきた瀧先生には脱帽だ。和洋中を問わず、素晴らしいシェフとお料理に出会える、口福のひと時に感謝。

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

特式冷盆

桜花獅子頭

ヨシキリザメのフカヒレ姿煮込み

金沙龍蝦

鴨胸肉クルミのチップの薫製

熱々の土鍋でハマグリと青梗菜を炒めるパフォーマンス

仕上げにカラスミを削り入れて

A5の和牛フィレ肉とペリゴール産フォアグラのステーキ

 
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