ラスベガスでクロック・マダムを注文した際、付け合わせに山のようなフライドポテトが盛られてきた。カリッと揚がっていて大層ウマイ。脂肪と糖質のダブルパンチはデブのもと、と思いながらも止まらない。
メニューには、「served with French fries」と書いてあった。フライドポテトは和製英語だが、あんなにアメリカンな食べ物なのに、なぜフレンチなのだろう? 調べたところ諸説あるが、第一次世界大戦時、米国兵がヨーロッパで食べ本国に持ち帰った際、現地ではフランス語が使われていたので、フレンチ・フライと呼ぶようになったという説が有力。でも、実はそこはベルギーだった。ベルギーこそ、フライドポテト発祥の地なのだ。
17世紀、ベルギーのナミュール州では、マース川の小魚を揚げて食べる習慣があったのだが、冬の寒さが厳しく漁ができなかった時、ジャガイモを小魚のように細く切って揚げたのが始まりと言われる。
ベルギーでジャガイモは主食。一人あたりの年間消費量は約76キログラムで、日本人の米の年間消費量約55キログラムをはるかに上回る。食べ方は多岐にわたるが、1番人気は「フリッツ」ことフライドポテトだ。サスガ発祥地、人口約1120万人に対し、フリッツ専門店が5500店舗もあるそうだ。2014年には、国内で無形文化遺産として登録されている。
その2014年、日本のジャガイモ料理にも転機が訪れた。米国西海岸で港湾労働者のストライキが長期化し、日本向けの輸出が大幅に遅延したため、年末にはマクドナルドがポテトの販売を休止する騒ぎとなった。
その折、アメリカ産に代わって輸入量が増えたのが、フライドポテトに合うとされるベルギー産の品種「ビンチェ」である。また、時を同じくして、本場ベルギーのフリッツ専門店も日本上陸を果たし、フレンチ・フライ専門店が流行し始めた。
日本で初めてフライドポテトが提供されたのは、1970年の大阪万博だそう。最近では皮付きも珍しくないし、ポテトの入った袋に粉を入れて振り、フレーバーをつけて食べるタイプなどもあり、随分進化している。イマドキの専門店では、オリジナルソースやディップが、常時10種類以上置いてあるらしい。
ポテトに何を付けるかは、お国によってかなり違う。アメリカ人はケチャップ派だが、フライドポテトをチップスと呼ぶイギリスではモルトヴィネガーだ。ベルギーのフリッツ専門店では、20種類以上のソースが選べるそうで、伝統的にはマヨネーズだが、それに唐辛子ベースのハリッサという調味料やレモン果汁を加えた「サムライソース」が人気だとか。
ベルギーのフリッツは1センチ角以上で、必ず2度揚げするのがルール。揚げ油も牛脂など動物性を使用することが多い。それにしても奥が深いぞ、フライドポテト! あぁ、こんなことを書いてたら、食べたくなってきた。今夜ベルギー流で作ってみようっと。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。
ベルギー・フリッツ
ベルギー・フリッツ
山のようなフライドポテトの付け合わせ