【竹内美樹の口福のおすそわけ 262】フレンチの老舗 宿泊料飲施設ジャーナリスト 竹内美樹


切り分けるために登場した、ムッシュ坂井と工藤シェフ(鹿児島出水産「華鶴和牛」の竹皮包み)

 企業寿命30年説をご存知だろうか? 元は「日経ビジネス」が1983年に唱えたものだそうだ。東京商工リサーチでも、業歴30年以上を「老舗企業」と定義している。その調べによると、昨年倒産した企業の平均寿命は23.9年だとか。モチロン業界によって事情は異なる。飲食業界の中でも、明治以降ホテルに付随して誕生した西洋料理レストランは、歴史が浅く企業寿命もまだまだ若い。

 先日、フレンチの鉄人坂井宏行シェフの店「ラ・ロシェル南青山」の「20周年感謝の宴(うたげ)」に参加させていただいた。同氏が独立され、「ラ・ロシェル」の1号店を開業されてから来年で40周年を迎えるというのだから、この業界では老舗中の老舗といえよう。

 そもそも「老舗」とは、辞書によると「代々続いて同じ商売をしている格式、信用のある店。先祖代々の家業を守り継ぐこと」とある。だが現代では、一代目であっても信用を築ければ老舗と呼ばれることが多い。

 「老舗」は動詞「しにす(仕似す)」が語源とされる。「仕えて似せる」ということは、店や家業の伝統技術を、働いて真似(まね)ることで継承するという意味だ。坂井シェフには、常務取締役料理長工藤敏之氏、総料理長兼南青山料理長川島孝氏をはじめ、ムッシュの味や技術を受け継ぐ多くのお弟子さんがいる。そして「これからも彼らが自由に楽しく料理ができるよう、会社運営という形でサポートしていく」と乾杯のあいさつで述べた、ムッシュのご子息であるサカイ食品社長坂井慎吾氏の存在も大きい。

 当日はムッシュと工藤氏、川島氏の3シェフの共演とあって、お料理は豪華版。最初の一皿は、グリーン・アスパラガスと魚介のシャルロット仕立て。アスパラガスのグリーンのソースを敷き、円形に整列したアスパラガスのシャルロットにキャビア、アワビ、車エビなどが盛り込まれた、目にも鮮やかな一品。

 そしてムッシュのスペシャリテが三品続く。まずは卵の殻を器にした「地玉子の半熟うに詰めサヴァイヨンソース」。トロリとした食感と濃厚な味わいはまさに口福。そしておなじみフォワグラのコロッケもこの日は特別仕様で、てっぺんには黒トリュフが。お次はごぼうのポタージュカプチーノ風。コレもホッとするいつもの味だ。

 メインはムッシュの出身地、鹿児島出水産「華鶴和牛」の竹皮包み。鹿児島県で育てられている黒毛和牛7万5千頭のうち、わずか500頭しか出荷されないため、「幻の和牛」と呼ばれるその肉を、竹皮で包んで蒸し焼きに。特設調理台で3シェフがそれを切り分けるサービスに、会場も湧いた。わさび風味のソースでいただけば、もん絶するほどの美味、超がつく絶品!

 3シェフそろい踏みというぜいたくで楽しいひと時は、あっという間に幕を閉じた。時間がたつのは早いが、こうして頼もしい承継者がいる限り、同店はこれからますます「フレンチの老舗」の地位を不動のものにしていくだろうと確信した。

※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

グリーン・アスパラガスと魚介のシャルロット仕立て

地玉子の半熟うに詰めサヴァイヨンソース

フォワグラのコロッケ

ごぼうのポタージュカプチーノ風

竹皮に包まれた様子(鹿児島出水産「華鶴和牛」の竹皮包み)

鍋から取り出したお肉(鹿児島出水産「華鶴和牛」の竹皮包み)

切り分けるために登場した、ムッシュ坂井と工藤シェフ(鹿児島出水産「華鶴和牛」の竹皮包み)

切り口は綺麗なロゼ色(鹿児島出水産「華鶴和牛」の竹皮包み)

わさびソースで仕上げた様子

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