前号に続き、沖縄「ホテル日航アリビラ」のお料理。毎回「ブラッスリー・ベルデマール」で、具志堅日出夫総料理長と古堅憲正洋食料理長が特別コースをご用意下さる。料理研究会と称してGMとテーブルを囲むのだが、趣向を凝らした料理の数々は、仕入れから考え抜かれた逸品ばかりで、本当に勉強になる。
今回いただいたコース。まずはアミューズとして「読谷産青野菜のムースと日立ベリームーンいちごのジュース、フォアグラテリーヌのクロケットと共に」。沖縄でイチゴを育てるのは難しいが、農業機械のリースなどを展開する日立キャピタルグループが、暑さに強い品種を開発、正真正銘地元のイチゴだ。甘酸っぱさとフォアグラのコクが絶妙なバランス。
続く冷前菜は「活鮑(あわび)のコンソメ煮とジュレ」。ガラスのふたを開けると、スモークの煙が立つ仕掛け。赤いビーツとあしらわれた青菜が、ビーツの仲間不断草というのもサスガ! 軟らかく煮た鮑とコンソメジュレ、ほのかに香るシークヮーサーのコラボは絶品。
温前菜は「今帰仁(なきじん)アグーのロールキャベツ」。今帰仁アグーは、西洋種との交配をしていない生粋の在来種で、とても希少。その挽(ひ)き肉のロールキャベツ、チキンブイヨンで3時間煮込んだそうだが、とろける味わいにノックアウト!
次は「県産ガザミ入りビスク、カプチーノ仕立て」。実は県産ガザミの他、台湾ガザミとズワイガニも使用しており、濃いカニの風味がたまらない。微量のカレー粉もいい仕事をしている。
魚料理は「近海魚と活ロブスターのポワレ」。沖縄産ハタ類のミーバイと、九州産活ロブスターを使用。フランス産A.O.P.(原産地保護呼称)の由緒正しいバター、ラ・ヴィエットとリンゴのソースが美味! ハーフカットのペラガッティーノチーズの上で仕上げ、トリュフを載せた香り高いリゾットも別皿で供され、ぜいたくな口福にウットリ。
いよいよメインの肉料理は「もとぶ牛、石垣牛、マンガリッツァ豚、三種の味わい」。本部町産もとぶ牛は、地元オリオンビールのかすと共に発酵させた配合飼料で育て、甘く軟らかい肉質が特徴。石垣牛は年間出荷数が500頭に満たない希少なブランド牛で、2000年の九州・沖縄サミット晩さん会のメインに選ばれた逸品だ。マンガリッツァ豚は、原産地ハンガリーの国宝に認定されており、「食べられる国宝」と呼ばれる。霜降り率が高く、脂の融点が低いためとろける味わい。石垣の塩とオリーブのデュクセル、モリーユ茸のソースが添えられ、超豪華な食べ比べだ。
いずれも美味なのは間違いないが、それは食材の質の高さや料理人の腕だけではないのだ。メインに添えられた紅ジャガ、赤ワインとスパイスに漬け込み真空調理した後に揚げたという。
小さな脇役に、そんなに手間を掛けているとは…。シェフの心がこもっているのが分かる。それこそが、人を口福にする一番のスパイスだと思った。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。