前号で、札幌グランドホテルのアスパラガス料理をご紹介したが、そのディナーの全貌について。昨年同ホテル総支配人に就任された硲(はざま)啓員(ひろかず)氏とは、前職の頃から料理研究を目的とした会食をご一緒させていただいていた。今回は小泉哲也総料理長にお任せしたメニューを、宴会場の個室でいただくスタイルだ。
酪農大学の紫アスパラに始まる2品の前菜の次は、「旬の魚介類の御(お)造り盛り合わせ」。氷を敷き詰めた器に、マグロやバフンウニ、ボタンエビなどさまざまなお造りが、彩り良いケンやツマと共に盛り付けられていた。モチロン和食の調理人の腕によるものだ。
特筆すべきは、マツカワとチップ。「マツカワ」とはカレイ科の魚で、ヒラメと同等またはそれ以上に美味とされる高級魚。漁獲量が少なく「幻の魚」といわれ、一般にはほとんど出回らないという。うろこが硬く松の表皮に似ているこのマツカワ、北海道では1980年代から人口種苗の放流に取り組んでおり、少しずつ漁獲量が増えているそうだ。
「チップ」は北海道の呼称で、サケ科の淡水魚ヒメマスのこと。こちらも種苗放流に成功したおかげで、絶滅危惧種ながらその恩恵にあずかれる。なかなか2種類一度にはいただけない。
続いて「山海の珍味ふかひれ入り蒸しスープ」。中華料理の真骨頂だ。アワビやふかひれそのものも当然おいしいが、その味がにじみこんだスープのうまいこと!
お口直しのグラニテは、栗山町産ルバーブ。寒冷地の栽培に適しているため、日本では道産が多い。ジャムはよくいただくが、グラニテは初めて。上品な酸味が、お口直しにピッタリ。
メインは、「士別産サフォーク種仔羊のロースト・行者にんにくソース」。頭と手足が黒い品種サフォークで町おこしに取り組む士別市では、ラム用仔羊を放牧しない。屋内でこだわりの餌で飼育するため、青草を食べて生じる独特の臭みが全くないのだ。
北海道特産の山菜で「アイヌネギ」とも呼ばれる行者にんにくは、タマネギやニンニク、ニラなどと同じネギ属。その風味を生かしたソースでいただく、ふっくらとローストされたラム。もう、たまりません♪
添えられたのは、フランス南部オーブラック地方の郷土料理、アリゴ。トム・フレッシュというチーズが入ったこの伸びるマッシュポテト、宴会料理でも提供しているという。道内初の本格洋式ホテルとして誕生した同館、サスガだ。
デザート前に登場したのは、北海道産チーズ盛り合わせ。「江丹別の青いチーズ」(ブルーチーズ)、「ふらのチーズ・セピア」(イカスミ入りカマンベール)など5種。国産のチーズもやるじゃないか!と感動的においしい物ばかりで、チーズ好きにはうれしい限り。
まん丸の玉の中にムースが入った、高い技術を要するデザートに至るまで、開業85周年の同ホテルの奥深さを、余すことなく堪能させていただいた口福な一夜。小泉総料理長、硲GM、ありがとうございました!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。