前号に続く「グランドニッコー東京 台場」プライベートワイン、最終章。
プライベートワインをお客さまにおススメする際、葡萄(ぶどう)の収穫から瓶詰めまで、全て自分たちが携わったと説明すると、「スゴイ! 収穫までされたんですか?」「東京にワイナリーがあったんですね!」と大きな反響があった。次第に、赤はないの?と聞かれることが増え、プロジェクト2年目は、赤とロゼのワイン造りに挑戦することに。
そして日本固有の品種「マスカットベリーA」を使用し、今回もやはり3タイプのワインに仕上げる計画を立てた。第1弾は、葡萄の果皮を取り除いた果肉を搾ったロゼワイン。前年同様、ビアサーバーから提供する微発泡である。
「山梨県産矢野マスカットベリーA生(き)ワイン ロゼ 2018」は、こうして2019年1月にリリースされた。無ろ過でビア樽(だる)に詰めサーバーから注ぐ、新鮮さを楽しむスタイル。新酒らしいはつらつとした酸味を持ちつつ、ドライな味わいだ。
続いて2月に発売したのは赤ワイン。最後の第3弾はロゼで、桜の時期に合わせ3月に販売開始した。
この葡萄、普通に仕込むと、色が明るく軽やかなワインに仕上がる。今回は、ほんのり色が出たところで皮を取り除いてロゼに。その皮を赤の樽に足してみたら、大当たり。濃いルビー色に仕上がったのだ。香りもブラックベリーや黒スグリのニュアンスで、なかなかの出来映えだ。
これぞ、都市型ワイナリーならではの自由な発想が成せる業。コレとコレを足したら、もっと濃くなるんじゃないの?と、ひらめきのような発想からワイン造りの可能性を導き出したのだ。筆者もいただいたが、同じ葡萄品種の他のワインよりずっと色が濃く、かつタンニンの渋味もしっかりある。シェフソムリエでプロジェクトリーダーでもある、似内利徳(にたないとしのり)氏のアイディアには脱帽だ。
ロゼは春らしいサーモンピンクで、フランボワーズなど小さな果実を思わせる華やかな香りが特徴。フルーティーさとほんのりとした渋味が共存する優しい味わいは、どんなお料理にもピッタリだ。
ホテルのブランドメッセージ「東京を楽しむ 東京をくつろぐ」にふさわしく、東京ならではの上質なひと時を演出するこのワイン。ゲストだけでなく、社員に与える影響も大きい。皆で一丸となって取り組めば、チームワークが育まれる。出来上がったワインには、スタッフの達成感と喜びが詰まっているのだ。
ワイン造りに必要な資金だけでなく、社員の労働時間などを考慮に入れたら、かなりの経費がかかる上、ワインの出来の良し悪しなどリスクもある。それを承知の上でこのプロジェクトの敢行を許し、自らもスタッフと共に汗を流したという塚田忠保代表取締役総支配人、まさに理想のリーダー像である。
次のヴィンテージ2019はリリースされるのか? ステキなプロジェクトの今後に、こうご期待!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。
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