前号に続き、具合が悪くて食欲のない時に何を食べるか?という、海外各国のお国柄事情について。
9度4分も熱が出てしまうと、ホントに何も食べたくない。というより、身体中が痛くてそれどころじゃない。…と、ついつい前号では飲み物の話が多くなったが、今回は食べ物。
水分しか取れない状況から少し良くなると、お粥(かゆ)のように軟らかい物を食べるというのは、各国共通の発想のようだ。だって、いきなりステーキじゃ、体が受け付けない。
中国やシンガポールなどはお粥も食すが、「湯麺」、つまり汁麺も食べるようだ。麺といえばイタリアでは、「パスティーナ」と呼ばれる小さなパスタが入ったスープ「パスティーナ・イン・ブロード」を食すそうだ。「ミネストリーナ」とも呼ぶようで、イタリアの病院食には必ず入っており、スープは透明で、パスタの種類によっては見た目もお粥そっくり。似た名前の「ミネストローネ」は野菜などの具だくさんなスープで、こちらも病人におススメ。具材がクタクタに煮込まれたスープなら、消化しやすいというもの。だから、フランスではポタージュやポトフ、ロシアではボルシチなど、病人にスープを食べさせる国は多い。
そしてこの「麺」と「スープ」という二つの要素を持つ料理が国民食になっているのが、アメリカの「チキンヌードルスープ」だ。米国版おふくろの味といわれるこのスープ、鶏肉と野菜を煮込んだチキンスープにショートパスタが入ったもので、麺も煮てあるので軟らかい。家庭ごとの味もあるようだが、一般的に最も食されているのは、「キャンベル」の缶詰だ。
アメリカン・ポップアートの巨匠アンディ・ウォーホルもキャンベル・スープ缶を作品の題材にしているが、彼自身がそうであったように、毎日のようにキャンベルのスープが食卓に並ぶ家庭も多いようだ。缶の中身に同量の水を加えて温めるだけという手軽さと価格の安さが、このスープを国民食にまで押し上げたといわれる。
実際どうなんだろう?とアメリカ暮らしが長かった母に尋ねたら、「風邪で寝込んだときは、やっぱりキャンベルのチキンヌードルスープね」という答えが返って来た。恐るべし、キャンベル! ボンカレーより登場回数多いかも?
話は変わるが、熱が下がりかけた頃、知人からブリの幼魚イナダをいただいた。釣った丸ごとのヤツだ。寝込んでいる筆者を気遣い、刺し身、西京漬けなど、好みの調理法まで聞いてくれた。
意外だが、実は生のままが一番消化しやすい。タンパク質は、加熱時間が長いほど、また加熱温度が高いほど硬くなり消化しにくくなるのだ。漬け魚も塩分の脱水作用で水分が抜け硬くなる。
…というワケで、お刺身を選択。ちょうどお粥から次のステージに移行しようとしていた筆者にとって、ぜいたく過ぎるごちそうであった。ちゃんと食べられるって、ホントに有難いなぁと、久々の口福をかみしめた。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。