看板料理「排骨(ばーこー)カレーチャーハン」で有名な、東京都墨田区にある台湾料理の店「生駒」。豚ロース肉を特製のタレに漬け込み、衣をつけて揚げた排骨は、しっかり味が付いていて、外はカリッと中はジューシー。定食、麺料理、ごはん料理などのランチメニューには、全てプラス400円で排骨トッピングが可能。それだけ人気があるのだ。
お昼時は行列ができる同店、他にも安くておいしい料理がたくさんあるが、元は賄い料理だったという「排骨カレーチャーハン」がいつの間にか話題となり、テレビなどメディアに取り上げられるようになったそうだ。お皿の上にドドォ~ンと盛られたチャーハンに、大きな排骨がどっかりのって、さらにカレーがタップリかかったその様は、見る者を圧倒する。
カツカレーがアリなんだから、排骨カレーもおいしいに決まってるけど、ごはんがチャーハンってどうなの? と思ってしまう。ところがどっこい、チャーハンの味付けにカレー粉を使っているのでうまくなじむのだ。中華スープをベースにし、片栗粉でとろみをつけた餡(あん)かけっぽいカレーとサクサクの排骨、そしてパラッパラに炒められたチャーハン。それぞれに美味なのに主張し過ぎず、三位一体となって口福のハーモニーを醸し出す。
同店創業者である小池光雄氏の実家は、長野県の農家。10人兄弟の大家族の食事係をしていたため、料理に興味を持ち、15歳で上京した。人形町の中華「生駒軒」で修業を積み独立し、その名を冠した店を1973年に開業。その後現在の場所に移転してから、30年以上たつ。いわゆる「町中華」の老舗だが、「台湾料理」と銘打っている。かつて勤めていた台湾人のコックから、郷土料理を教えてもらったという。確かに排骨飯は代表的な台湾料理。だが「炎のスペアリブ」や、同氏のパンチパーマから名付けられた「皿パンチ」(汁なし台湾ラーメン)など、オリジナル創作料理も多い。
同店で特筆すべきは、看板料理だけではない。常連客の顔を見ると「まいど!」と元気に声を掛ける、看板娘美千代さんの存在だ。父光雄氏と弟秀弘氏が厨房、彼女はホール担当。約20席とはいえ、常に満席の客からオーダーを取り、料理を運んで下げて会計もし、外の行列も仕切り、隙間時間には洗い物もこなす。テキパキ注文を通す姿は、まさに司令塔。オマケに愛想が良くて気配りもある。
その上、記憶力が良い。サービスマンのポテンシャルとしては重要だ。お客は自分の顔を覚えて常連扱いしてくれたらうれしいもの。客の好みも覚えている。紹興酒は常温で飲む筆者だが、汗だくになる料理が多いから、ここではロック。先日も料理を注文した後「それと…」と言っただけで、「紹興酒ロックですね」と美千代さん。看板料理とともに、看板娘が同店を支えているのは間違いない。
書いていたら、かむと肉汁があふれ出る、絶品水餃子(ぎょうざ)が食べたくなっちゃった。次はいつ行こうかな?
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。