
ウイルス禍の外出自粛要請で、在宅勤務のお父さんや休校中のお子さんを抱えるお母さん、朝昼晩のメニュー選びは悩ましいに違いない。そんな時の救世主がTKG、卵かけごはんだ。ごはんと卵と調味料さえあれば、子どもだって自分で作って食べることができる。
この料理、シンプルゆえに奥が深い。例えば調味料。選択肢はしょうゆだけでなく、塩やふりかけでも美味。しょうゆだってTKG専用しょうゆをはじめ、いろいろなフレーバーの物がある。ごま油やオリーブオイルをプラスオンするのもアリだ。作り方もさまざま。卵を混ぜてからかける派と、ダイレクトイン派の他、卵白をメレンゲ状になるまで泡立てる人も。生卵を殻ごとセットすると、割卵され白身だけが泡立てられる、「究極のTKG」という機械まで存在する。
筆者は混ぜてから派だったが、一度洗い物を減らそうとダイレクトインした際、たまたま黄身が分離して白身だけごはんと混ざったことがあった。メレンゲとまではいかないが、ふわっふわに泡立った。以来、できるだけ黄身がお茶わんの端に来るように卵を割り入れている。フワシュワの卵白ごはんの上で卵黄をつぶして一混ぜすれば、マーブル模様を描きながら一体化していく様子が、もうすでに垂涎モノ。
元々海外では、あまり生卵を食べる習慣がない。文献によると、日本では江戸時代には卵が生食されていたようだが、卵かけごはんとしては、日本初の従軍記者として活躍した岸田吟香という人が、明治5年に初めて食したとされる。その出身地岡山県美咲町などいくつかの地域で、TKGが町おこしに一役買っているらしい。2005年には島根県雲南市で「第1回日本たまごかけごはんシンポジウム」が開催され、その日にちなみ、10月30日は「たまごかけご飯(はん)の日」に制定されているそうだ。
産官だけでなく、民間の成功事例もある。筆者も以前訪れた、兵庫県豊岡市但東町にある「但熊」は、養鶏場と米作りを営むオーナーのTKG専門店だ。見渡す限り山と田畑しかない場所にこつぜんと現れる同店は、今や年間約5万人以上がやって来る人気店。こだわりの卵「クリタマ」と、食味の高いお米「夢ごこち」を使用したTKG、しかも卵が食べ放題なのがうれしい。
実はこのTKG、ウイルスとの闘いに力を発揮するという。卵に豊富に含まれるタンパク質は、皮膚や粘膜だけでなく、細菌やウイルス感染の予防に役立つ免疫グロブリンの材料にもなるそうだ。体の免疫機能をつかさどるとされる小腸の機能を回復させるグルタミンも多く含まれており、感染症予防に効果的だといわれる。また、卵黄に含まれるリン脂質レシチンは、細胞の代謝を活発にし、免疫細胞の強化に役立つ。さらに卵白は、風邪薬にも使われている、殺菌効果の高いリゾチームを含有(がんゆう)している。ただ、グルタミンやレシチンは熱に弱いため、生食が一番というワケだ。
憎らしいウイルスめ、TKGでやっつけちゃえ!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。