【竹内美樹の口福のおすそわけ 323】ニッポンの誇り、海苔の不思議 その2 宿泊料飲施設ジャーナリスト 竹内美樹


 前号に続き、海苔(のり)の不思議について。養殖技術が劇的に向上したとはいえ、自然任せの「運草(うんぐさ)」であることは変わりないらしい。糸状体(しじょうたい)の海苔が付いた牡蠣(かき)殻を「落下傘」と呼ばれる袋に入れて網にぶら下げ、放出される胞子を網に付ける「採苗(さいびょう)」の際、海が荒れたら、胞子は網に付着しないからだ。また、その後の「育苗(いくびょう)」中も水温変化などの影響で病気になりやすい。

 毎年12月に知人から有明産の「乾(ほし)海苔」をいただき、懇意にしている山本海苔店に焼いていただく。今までに数回、海苔が不作で採れなかったという年があったが、そういうことだったのか。

 海苔の芽が3センチぐらいに育つと、種網の半分を引き上げ冷凍庫へ。海苔は冷凍しても生きたまま保存でき、海に戻すと再び成長するそうだ。この冷凍網技術が確立したおかげで二期作や三期作が可能となり、予備網として病害等のリスクヘッジもでき、海況や天候に左右されにくくなった。

 20センチ程度に育つと、いよいよ「摘採(てきさい)」だ。海苔は一度収穫しても、2週間ほどで成長し、再び収穫できる。だから最初に採れる新芽は「初摘み」などと呼ばれ、二番摘み以降の海苔より柔らかく香り高い。4回ほど摘採し冷凍網に交換。収穫は冬に始まり春まで続くが、旬は一番摘みの冬だ。

 収穫後全自動海苔製造機で板状の乾海苔になり、検査を受け等級が付き、入札会へ。メーカーや問屋が買い付け、焼き海苔や味付け海苔に加工、販売される。

 全型の焼き海苔は必須アイテムだが、8切(さい)サイズでパックになった味付け海苔も超便利。ご飯のお供としてはモチロン、それだけでお酒のアテにもなる。

 実はこの味付け海苔、明治2年に山本海苔店の二代目山本徳治郎氏が創案したもの。嘉永2年創業の老舗だが、その精神が受け継がれ、新作の開発も盛ん。中でも、梅やごまなど顆粒(かりゅう)の具材を2枚の海苔で挟んだ「おつまみ海苔」や「海苔ちっぷす」が大ヒット。主役を張れる「おつまみやおやつとしての海苔」という新ジャンルを構築した。

 海苔は「海の野菜」と呼ばれるほど、栄養素が豊富。レモンの倍以上のビタミンCが含まれているのもビックリだが、C以外にもAやBなどほとんどのビタミンを含有。さらに鉄分、カルシウムやカリウムなど多くのミネラルのほか、コレステロール値を下げる必須脂肪酸EPAや、強肝作用のあるタウリンも含まれており、生活習慣病撃退や二日酔い防止にピッタリ!

 しかも、海苔の4割は良質なたんぱく質。何と大豆より含有量が多く、必須アミノ酸も全て含まれているというのだからオドロキだ。食物繊維も豊富だから、デトックス効果も期待できる上、低カロリー。罪悪感なく食べられる、というより、食べなきゃ損!

 701年に制定された「大宝律令」に、朝廷への税として海苔が記載されている。日本人が古くから親しんできた海苔の世界は、まだまだ奥深い。今度は産地による味の違いを比べてみたいと思う筆者である。

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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