前号でも触れた米国NY(ニューヨーク)。どこか緊張感があり、スノビッシュな雰囲気と、ワクワクするようなエンターテインメント性を併せ持った不思議なこの街は訪れるたびにエネルギーを与えてくれる気がする。
海外では、可能な限り市場と美術館に行く筆者。NYにも大小さまざまな美術館があるが、中でもとりわけ好きなのが、MoMAの愛称で親しまれている「ニューヨーク近代美術館」だ。
19世紀後半以降の近代美術を展示しており、モネやセザンヌなど印象派の絵画、アンディ・ウォーホルやロイ・リキテンスタインに代表されるポップアート、アルベルト・ジャコメッティなどのモダニズム彫刻といった有名な芸術作品が目白押しで、何時間居ても飽きないくらい。
そのMoMAにあるレストラン「The Modern」は、美術館に併設された飲食店というイメージをはるかに超えた、ミシュラン二つ星のファインダイニング。2020年度版東京では、三つ星11軒、二つ星48軒など合計226軒が選ばれているのに対し、NYは三つ星5軒、二つ星14軒、計76軒と数が少ないことからも、実力のほどがうかがえる。
店内は、カジュアルゾーンの「The Bar Room」とダイニングに分かれ、予約も別。ダイニングの奥は天井まで全面ガラス張りで、その向こうにはMoMAの彫刻庭園が。おススメは、何といってもランチ。陽光が降り注ぐ開放的な空間で、彫刻を眺めながらのお食事は、超ぜいたくなひと時だ。
お料理は、コンテンポラリー・アメリカン。ランチは前菜、メイン、デザートのプリフィクス・コースか、少量ずつ6品が提供されるテイスティング・コースのいずれか。筆者はいつも、選べる楽しさでプリフィクスを選択。量も十分だ。
特筆すべきは、盛り付けの美しさだろう。モダン・アートに負けず劣らず、芸術作品のようだ。例えばバター一つとっても、ドーナツ型の円柱にハーブと岩塩をあしらった姿は凛としていて、ナイフを入れるのがためらわれるほど。また、ある日の前菜は、正方形に整えた生ハムとパテが市松模様に並べられ、まるで、白いお皿をキャンバスに見立てた絵画のよう。
思い出しているうち、また行きたいなぁと久々に公式サイトをのぞいてみると、現在は残念ながら、新型コロナの影響で臨時休業中。「私たちのチーム、お客さま、そして地域社会の健康と安全を優先するため」と理由が掲載されていた。
同じNYのレストラン「ゴッサム・バー・アンド・グリル」もご紹介したいと考え、改めてググってみたら、何とコロナ禍に打ち勝てず、閉店したという情報が! え~ん、悲し過ぎる!!
1984年創業来NYのレストランシーンをけん引してきた一つ星の店が…と驚いたが、筆者が役員を務める会社も飲食店を営んでいるので、身につまされる。宿泊業や旅行業など、苦境に立たされている業界は多い。見えない敵は手強いが、力を合わせて闘い、やっつけてしまおう!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。