ウィズ・コロナの現在、テイクアウトを中心に、外食で唐揚げの一大ムーブメントが巻き起こっているが、元々唐揚げを初めて飲食店で提供したのは、東京銀座の三笠会館。大正14年「氷水屋三笠」として創業した同店、その後食堂として繁盛し、昭和7年には支店を構えたが、その支店が営業不振に陥り、本店の経営まで脅かすことに。そこで起死回生を図るべく考案された新メニューが「若鶏の唐揚げ」だった。
ヒントになったのは、豆腐に粉をまぶして揚げた中華料理だとか。当時鶏肉は高級食材だったが、唐揚げは大ヒット。支店は「チキングリル三笠」と店名を改め、銀座名物となった。
当時の店は東京大空襲で焼失してしまったが、現在も銀座の三笠会館本店1階「ラ・ヴィオラ」でいただける。今も当初と変わらない味に、古くからのファンも多い。筆者もその一人。
同店では、1キログラム前後のひな鶏を、骨付きのままぶつ切りにしている。使用部位はモモ肉、胸肉、そして手羽先だ。創業者谷善之丞氏は信心深かったそうで、鶏の命をいただく以上、全て無駄にするなと厳命。頭や骨でブイヨンを取ったり、砂肝はカレーに入れるなど、丸ごと一羽、捨てることなく使っているという。
薄口しょうゆ、焼酎、砂糖、ごま油などで作る秘伝のタレを、揚げる直前に鶏肉に絡ませる。漬け置きは絶対にしないそうだ。そして片栗粉をまとわせたら、高温の油で時折空気に触れさせながら揚げれば、黄金色に輝く伝統の唐揚げが。
骨付きだから豪快に手づかみで食せば、衣はサクッと中は超ジューシー。添えられたレモンや白ゴマ塩、練り辛子で、いろいろなバリエーションも楽しめる。
昔と同じ鹿の模様のお皿も、懐かしい味を演出している。屋号の三笠も、味のある鹿のイラストも、創業者の出身地、奈良にちなんだもの。このお皿、人間国宝五代加藤幸兵衛氏の作だそう。サスガ老舗!
一方、家庭のメニューで唐揚げ人気が急上昇したのは、1974年に「日清から揚げ粉」が発売されたのがキッカケらしい。確かに、簡単でとっても便利だ。
わが家では、母の手羽中唐揚げがスタンダード。今は筆者にバトンタッチされたが、味付けは至ってシンプルで、しょうゆと日本酒、おろし生姜とおろしニンニクを混ぜて漬け込むだけ。配合は気分次第だし、漬け時間によって左右されるから毎回味が違うが、そこはご愛嬌(あいきょう)。片栗粉をまぶして二度揚げすれば、絶品唐揚げの出来上がり!
熱々をハフハフいただくと、皮はカリッと超絶美味、2本の骨の間に肉汁がタップリ、骨ぎわの肉も旨くて、自慢したくなる味だ。
オイルのCMで、嵐の二宮君が唐揚げをつまんだ後「揚げたては、無敵だ」って、まさにその通り! 前出の三笠会館では、戦後の食糧難時でも鶏肉、油、片栗粉だけは切らさないよう奔走していたそうだが、この三つの掛け算の発明は、ノーベル賞モノだと思う。さぁ、唐揚げ食べよう!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。