先日東京錦糸町の「串揚げ依知川」を訪れた。白木の門をくぐり、和の趣の庭を通り扉を開けると、ひのきのカウンターが出迎えてくれる。落ち着いた隠れ家的な雰囲気に期待が膨らむ。
まずは、クリームチーズのみそ漬けと、パプリカの酒盗和え、ほうれん草ごまあえの3種が登場。やっぱり酒呑みの店だ。入手し辛い銘酒がそろい、ワインとのマリアージュも楽しめる。
続いて特注の葉っぱ型のお皿に載った、10種のオリジナルソースが運ばれる。写真入り解説POPもあり、どれが何か分かりやすい。そしていよいよ10串コースのスタートは、白姫エビのしそ巻き。衣を極限まで薄くしているのが同店の特徴で、衣の向こうに青しそが透けて見える。他店ではパン粉で全体的に茶色くて、中身が何だか分からないことが多いのに…。
提供する際、「こちらは塩とすだちがおススメです」と一言添えて下さる。10串で、10種類のソースを使う寸法だ。次の豚の角煮は、辛子を勧められた。軟らかな角煮と、パリッとした衣のハーモニーがイイ。
続くアスパラの肉巻きは、アスパラガス1本に薄い豚肉を巻き、揚げてから根元の硬い部分を切り取り、丁寧に紙で巻いて手渡してくれる。こちらは自家製タルタルソースで。他の串揚げ専門店でも同じメニューがあるが、やはりこの店の方がずっと繊細だ。
お次は長ねぎと真ふぐをおろしポン酢で。生ハムチーズはチリソース。意外にもギョーザっぽい味わいの鶏つくね油揚げ包みは甘酢トマト。蓮根エビすり身詰めはフルーツソースと。和牛と卵黄は特製たれに絡めて。ごぼうベーコン巻きを甘みそでいただくとソース皿を1周、最後のカキは塩とすだちに戻る。
何しろ衣が軽いので、まだまだイケると追加オーダー。まずは小柱。かなり大振りで、モノが良いのが分かる。銀杏は、5個のうち3個に衣が付き、2個は素揚げで翡翠(ひすい)色が美しい。子持ち昆布、青森県産にんにく、真ダラ白子など、素材も素晴らしいがそれを生かす揚げっぷりもスゴイ。ゴルゴンゾーラは蜂蜜が添えられ、衣サクッと中はトロットロで超美味!
同店は、予約が取りにくいことで有名な浅草橋の「串衛門」、人形町の「なかや」の姉妹店で、いずれも依知川氏兄弟が手掛けている。串揚げって、例えばシイタケを肉詰めにするなどネタにこだわるとか、ソースに工夫する以外、違いを演出しにくい料理だと思う。だが、同店の串揚げは、それ自体が格段に上品で他と違う。
秘密はパン粉だろうとうかがってみると、アッサリ教えて下さった。創業昭和17年の老舗パン屋、浅草「ペリカン」から仕入れた細かいパン粉を、さらにもう1度ミキサーでひいて、網でこしてから使うと言う。
同店は「江戸前串揚げ」と銘打っているが、大阪創業の老舗で全国30店舗展開する「串の坊」は「串カツ専門店」を名乗り、今イケイケなのも「串カツ田中」だ。串揚げと串カツって違うの? 続きは次号で!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。