今年開催された、G7仙台財務大臣・中央銀行総裁会議は、東日本大震災の復興支援への御礼と、復興の現状報告という要素もあって、東北仙台での開催となった。そのメイン会場に選ばれたのが、宮城県・秋保温泉「伝承千年の宿佐勘」。重要な国際会議の開催にあたり、同館では大変なご苦労があったに違いない。
開湯およそ1500年前と言われ、欽明天皇の病を癒やし「御湯」の称号を賜って以来、代々の当主が湯守を務め、伊達政宗公の湯浴み御殿だったとしても知られる歴史ある同館だが、現社長34代目佐藤勘三郎氏のさまざまなこだわりには、目を見張るものがある。
例えば、ロビーにあるラウンジ「おかみの紅茶」。ダージリンとアッサムのピュアリーフを使用し、ティーインストラクターの資格を有するスタッフが入れてくださる紅茶は、言うまでもなく美味。実はこのラウンジのオープンにあたってメニューから珈琲が消えたにも関わらず、売り上げは倍増したそうだ。
珈琲好きのためには、夜9時からオープンするカフェ「神は細部に宿る」が用意されている。レコードプレーヤーから流れる音楽を聴きながら、ネルドリップ式の本格珈琲をゆったりと楽しむというのは、従来の旅館ではあまり例の無い過ごし方であろう。
筆者のような呑兵衛にうれしいのが「ワインバーくら倉」。こちらはスタッフ厳選のフランスワインや、同じ東北のタケダワイナリーのオリジナルワインなど、充実の品ぞろえだ。他の宿とはひと味違うと評価されるゆえんである。
そして今、同館で最も人気なのが、佐藤社長が「夕食より高い評価をいただいているかも?」と苦笑されるほどの朝食。こだわりの朝食ビュッフェ「プレミアムモーニング」が名物となっているのだ。
和洋中さまざまな料理がずらりと並び、その向こう側には大勢の調理人や、割烹着姿のかわいらしい仲居さんたちの姿が。焼魚、コロッケ、ゆで野菜、玉子焼きにオムレツなど、料理の大半は彼らが目の前で調理してくれるから、会場全体がライブ感にあふれ、熱気に満ちている。パンだって焼き立てだ。1時間ごとに焼き上がる、オーブンから出したばかりのクロワッサンは、表面はカリッとして中はモチモチ、専門店に引けを取らないおいしさだった。
自らスタッフに交じって朝食会場で立ち働く佐藤社長。今回伺った際、数年前よりこの朝食がパワーアップしていたのは、社長が現場で感じ取ったことをすぐスタッフにフィードバックし、改善を重ねてこられたからだろう。
ところで…。これだけおいしい物がたくさん並んでいると、ついつい一杯やりたくなってしまうが、宿の朝食ブッフェには珍しく、生ビールサーバーとワインが完備されていた。人の心をつかむのに長けておられる34代目に感謝しつつ、新鮮なイカ刺しをツマミに白ワインをいただき、口福な朝のひと時を過ごした筆者であった。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。