蟹(かに)好きの筆者、蟹についてのコラムも2桁を突破したが、まだ書いていない場所があった。蟹類の水揚げ量と1世帯当たりの消費量ともに全国1位ということで、2014年に「蟹取県」への改名を発表した鳥取県だ。その水揚げ量は全国の約45%を占め、蟹で名高い北海道のおよそ3倍以上にも上るという。
同県では、蟹が旬を迎える秋冬の観光客誘致に、同年から「ウェルカニキャンペーン」をスタートさせた。期間中、対象宿泊施設に泊まって応募すると、抽選で旬の蟹が当たるなどとしたもので、今年も県を挙げて大々的に開催中である。
先般、鳥取県旅館ホテル生活衛生同業組合(岩﨑元孝理事長・三朝温泉依山楼岩崎)の、経営研修会講演の講師を務めるため、同県を訪れた。事務局の米原哲男氏に諸々ご手配いただき、会場となった鳥取市内の「観水庭こぜにや」に伺った。鳥取駅から徒歩8分という街中にありながら、60度近くの源泉が湧く温泉旅館だ。大浴場のほか二つの貸切風呂も無料で利用でき、温泉好きにはうれしい。
講演終了後、懇親会に出席させていただいた。同館小谷文夫社長がご用意下さった心尽くしのコース料理に舌鼓を打ちながら、会話が弾む。趣向を凝らしたさまざまなお料理の中でも、特に印象的だったのが「親がに」。雌のズワイガニのことで、福井県ではセイコガニ、兵庫県ではセコガニ、石川県では香箱蟹、京都府ではコッペガニと呼ばれる。価格が手頃ということもあって、家庭でもよく食べられているとか。
まずは甲羅盛りにした親蟹に、土佐酢のゼリーをのせた酢の物。甲幅約7センチ程度の小さな蟹の身を剥くのは骨が折れるから、食べやすくて有難い。タラバのように大きな蟹と違い、身を蟹酢につけて食べるのも容易でないため、ゼリーにした土佐酢をのせるというのも、食べる人に優しい工夫である。
もう一つは、親蟹の味噌汁。甲羅の部分を縦半分に割った蟹が、そのまま味噌汁に入っており、これぞ親蟹という感じ。周囲の方々は、みるみるうちにその蟹を完食。「子供の頃から食べ慣れているから」「手で持って吸って食べるのが一番ですよ」と口々に仰っていたが、そこには「親蟹愛」があふれていた。
お味はと言うと、ねっとりとした内子とプチプチの食感が楽しい外子、うま味の濃いミソと甘みの強い身の全てが混然一体となり、たまらなくウマイ。蟹から出た出汁も絶品! 親蟹の漁期は11、12月のたった2カ月。無理してでも食べに行く価値はある。
今年10月に起きた鳥取県中部地震は記憶に新しいが、県の観光連盟のサイトに「鳥取県は元気です!遊びに来ていただくのが一番うれしいです?」とある通り、被災したことは全く感じず、むしろ風評被害の方が深刻なのだと思った。同サイトには、「とっとりで待っとります?」と大きな文字で記載されている。ここは一つ、皆で鳥取県に蟹を食べに行こうカニ!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。