うどん県香川に行くと、朝食は、もちろん讃岐うどん。よく伺うのが、朝8時から営業している観音寺市の「かなくま餅」だ。店名に「餅」とついているだけあって、お餅屋さんとしても人気が高い。先日お邪魔した際も、お祝い事の特注品だという紅白の丸餅がずらりと並んでいた。
同店では、自家製うどんに香川県産の小麦「さぬきの夢」を100%使用している。オーストラリア産の小麦粉を使う店が多い中、扱いが難しいと言われるこの小麦粉で、50%減塩うどんの製造に成功。「さぬきの夢」を100%使用したうどんを提供する店のうち、厳しい審査基準を満たした店として、「かがわ農産物流通消費推進協議会」から「さぬきの夢こだわり店」の認定を受けている。
看板メニューの一つが「かねもちうどん」。観音寺と言えば、見た者はお金に不自由しないと言われる、寛永通宝を模した「銭形砂絵」が人気の観光スポット。その銭形のかまぼこと、やはり観音寺名物海老の竹輪「えびちっか」、揚げ玉にワカメ、そして餅がトッピングされた、金運がアップしそうなうどんである。そして驚くなかれ、餅は餡子入りも選べるのだ。
香川県では、正月に「あん餅雑煮」を食べる習慣がある。白味噌仕立てのお雑煮に、餡子入りの丸餅が入っているのだ。農林水産省選定の「農山漁村の郷土料理百選」でも、讃岐うどんと並んで香川県を代表する郷土料理に選ばれている。
江戸時代、高松藩では特産品の塩・砂糖・木綿の三品を「讃岐三白」とし、その生産を奨励した。中でも国内で初めて製造に成功した白砂糖「和三盆」づくりが盛んになったが、藩の管理下にあったため、製造している農民たちの口に入ることはなかった。でも、お正月くらい贅沢をしたい。そこで彼らは砂糖を入れた餡を餅で包んで、雑煮に入れたのだそうだ。さらに万一役人に見つかった時に備え、塩味の餡入りの「塩あん餅雑煮」も作ったのだという。だから今でもこの両者が存在するのだ。
話を戻そう。甘い餡子が入ったうどんって、どうなの? いつもは甘辛く炒めた牛肉と温泉卵が載った「肉たまぶっかけ」がお気に入りだが、今回初挑戦してみた。
地元伊吹島産のイリコ出汁が効いたおつゆは、文句なしのウマさ。今も足で踏んでいるといううどんは弾力に富み、モチモチの歯応えで喉越しも良い。そして、あん入り餅を口に運んでみると…滑らかな舌触りでムッチリした食感の餅と程好い甘さの餡子、塩味の出汁とのハーモニーは意外なほど美味。食べ進むうち、つゆでトロトロに軟らかくなった餅は、おいしさ倍増!
料亭としてスタートし、うどん屋としては二代目という店主、秋山史郎さん曰く、昔はあん入り餅うどんを出す店がいくつもあったが、今は2軒しかないそうだ。ご子息が跡を継いでおられるが、ずっと作り続けてほしいと思う。
甘じょっぱい、クセになる味、ぜひ一度お試しあれ!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。