「人」は経営資源の一つとして、多くの企業でその重要性が繰り返し唱えられてきた。「経営は人なり」は特にホスピタリティ企業であるホテルにおいて最も重要な差別化の要素であり、「人=スタッフ」そのものが商品となる。そして、高コストの広告よりも顧客に強いインパクトを与えることもできる。人というものは無限の可能性を秘めているものであるから、この可能性をうまく引き出し、有効に活用することが企業の利益につながるとして注目を集めている。その考え方の一つが「インターナル・マーケティング」で、一般的にスタッフのES(従業員満足)やモチベーション向上を目的とした活動である。
近年、ホテル業界の課題となっている人材不足問題や、従来から頭を痛ませてきた高い離職率といった問題解決の一つの方策として、また顧客満足向上の前提条件としてESは注目されてきた。
人材不足や離職現象は、ある程度ホテル業界に対する不満の結果であるといえる。安い賃金、アイドル・タイムや夜勤等の働き方に対する不満、接客場面における感情消耗によるストレス等が不満の原因として挙げられている。一般的にESに影響を及ぼす要因としては
(1)明確な道筋でモチベーションを喚起する企業のビジョン
(2)上司のマネジメント力
(3)人事制度
(4)キャリア開発支援
(5)組織風土
(6)快適な勤務環境
などがある。その中でホテル業務の特性に注目したい。
ホテル業務は顧客とスタッフとの相互作用そのものであって、その過程で、実際の感情とは異なる、組織が決めた特定の感情を表現するように要請されることがある。そのためスタッフはエネルギーを使い果たし、感情消耗の状態に至ることがよくある。この感情消耗はスタッフの職務不満足に影響すると知られているが、このようなストレス状態を和らげる要因は明らかになっているとはいえない。一部知られている要因としては、上司のサポートや職務自律性があるという。つまり組織内で仕事上の権限の程度や上司にケアされていると感じる程度が、ESに直接影響しているといえる。すなわち高いESは顧客満足に影響を与え、満足した顧客がリピーターになり、収益向上につながる好循環が生まれるのだ。
職務ストレス緩和のための組織システムを構築しESを高めていくと、従業員自ら顧客の楽しみのためになる何かを発見し対応していくようになる。またその中でやりがいを感じ、さらなるモチベーションにつながることが期待できる。ハッピーなスタッフがハッピーな顧客をつくり愛されるホテルをつくっていくわけである。
崔 錦珍教授