【観光学へのナビゲーター 26】新型コロナ収束後に向けた「1年半計画」 日本国際観光学会会員・日本総合研究所客員主任研究員 田中康之


田中康之氏

 当初は、「Inbound flow the Internet video~クールジャパンを支える動画サービス~」のレポートする予定でしたが、本原稿執筆前3ケ月の間に新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」。)の流行拡大で観光業は壊滅的な打撃を受けており、新型コロナ収束後に向けた支援策の投稿に変更することにしました。

 1919年に世界的に広まった「スペイン風邪」の終息には1年半の月日が必要だったことから、新型コロナの流行拡大の収束が見えない現状では、相当の防疫期間が必要と専門家からは指摘されています。そして、観光産業を維持する宿泊施設やそれに従事される方々の事業継続の支援が喫緊の課題となっています。

 政府は新型コロナ収束後を「V字回復フェーズ」と位置づけ、経済V字回復の要として外出自粛要請などで打撃を受けた観光や運輸、飲食などの分野を重点的に支援するとしています。まずは、2020年度補正予算に官民一体型の消費喚起策として観光庁は、経済産業省関係で総額1兆6,794億円の国費を計上しました。その中核事業として「Go To Travelキャンペーン」(仮称)に、旅行商品の割引や、観光地周辺の土産物店、飲食店、観光施設などで使えるクーポン券の発行を支援する施策を盛り込み、新型コロナウイルス感染終息後の半年間で5,000万人泊の需要創出を目指し、観光予算としては、前例のない1兆3,500億円を計上しています。さらに、総額1兆円を投じる地方臨時交付金もあり、国内旅行需要を喚起する地域活性化施策で自治体の役割が増すことになります。

 本テーマであった「観光学の羅針盤」を新型コロナの収束後の観光需要喚起策定に置き換えて、実務課題を整理すると次のようになります。

 1.「3密」に配慮した来訪客の受け入れ態勢づくり。

 2.コロナ自粛により人々の価値観が大きく変わる来訪客地域ニーズのシミュレーション検討。

 3.当面はアウトバンドとインバウンドの動きは鈍く、まずは国内観光に向けて訴求する地域の観光資源シーズの再確認。

 4.魅力的なシティープロモーション情報の発信及び、ターゲット来訪客受け入れ体制の工夫と周知徹底。

 5.移動自粛とテレワークで広まった「DXデジタルトランスフォーメーション」ITC・IoT社会環境への取り組み。

 これ以外にも多くの課題がありますが「禍を転じて福と為す」。これを契機に既成の画一的な観光事業から、ユニークで魅力的な観光事業へ脱皮して、地域の観光資源をそれぞれの事業と紐付ける新しい施策を策定することによって、各事業者が自分の立ち位置を理解して最良のサービス提供で臨み、来訪客の魅力を引きつける仕組み作りが必要です。 星野リゾートは、インバウンドを含めた完全回復に向けて「1年半計画」を立案し、人材の維持やコストの先送りなど生き残りのためにできることを逆算して落とし込んでいます。新型コロナ収束後の「新ノーマル」に向けて強いリーダーシップで意識改革に取り組んでおり、長期化が予測されるコロナ不況下のロードマップになるでしょう。

 このように、地域官民一体型の「羅針盤」を早い時期に観光事業者と共有することが、観光による地域経済のV字回復の第一歩ではないでしょうか。

田中康之氏

 

 
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