近年の鉄道人気を反映してか、ニュースなどで報道され問題となっているのが、鉄道写真や動画の撮影を趣味とする、一部の過激な撮り鉄によるマナー違反である。線路への立ち入りなど重大な事故に直結する危険な行動や過激な迷惑行為も後を絶たず、沿線住民や一般の乗客にも影響が及ぶ事態も発生している。有効な解決策がないこともあり、鉄道各社も頭を痛めている。
これらの発生の原因は、ギャップとレア、そしてデビューとラストランがもたらすそれぞれの「瞬間」である。ギャップとレアはその路線を通常では走らない車両の走行であり、デビューとラストランは車両が初めて走る場合や運用終了の最終走行を指す。例えば今年の3月24日に中央線で30分余り遅延した要因は、特急「踊り子号」などで40年間活躍した185系という車両が廃車のため長野総合車両センターへと回送される「瞬間」を狙った撮影者が鉄橋に立ち入ったためであった。廃車回送というレアと、究極のラストランの合わせ技である。普段は鉄道を愛する心優しい人であっても、撮影場所を巡って小競り合いや乱闘になることもあり、「瞬間」を狙った過激で恐ろしいハンターへと変貌するのである。
この問題を、「時間・期間」、「場所・地域」、「機会・場合」の3点から捉え直すと、過激な撮り鉄によるマナー違反発生のメカニズムがオーバーツーリズムと酷似していると考えられまいか。この3点に応じて至る所で瞬間的に観光客が過度に集中する。これら観光客の大半は良く表現すると「一見さん」であり、悪く表現すると「烏合の衆」である。ある時期に限って「一見さん」や「烏合の衆」が過度に集中する地域では、来訪の「瞬間」のみを狙って営業する立ち食い系飲食店や土産店などのチェーン店が出店する。私はこの傾向を「オーバーツーリズムによる瞬間的な観光地化」として憂慮している。
かかる「オーバーツーリズムによる瞬間的な観光地化」を、当該地域の住民や関係者はどのように感じているのだろうか。一部の過激な撮り鉄によるマナー違反が、鉄道各社やその一般利用者はもちろん沿線住民にも被害を及ぼしている。同様に、「一見さん」や「烏合の衆」など立ち食い系飲食店利用客が引き起こすゴミのポイ捨て問題や交通渋滞など、喜ばしいはずの観光客来訪が地域にとっては悪影響を及ぼす恐れがあり、長期的には地域衰退の可能性もある。今後「オーバーツーリズムによる瞬間的な観光地化」を防止するためには、当該地域の住民や関係者の声なき声を引き出し、地域本来の姿が歪められないように主体的な行動を促す事こそが必要であろう。この問題は観光客が急激に増えた地域に共通していると考えられるため、当該地域の住民や関係者に寄り添った研究が重要なのではないだろうか。