観光まちづくりにおける福祉的対応は、すべての人々が円滑な観光行動を可能となる社会を目指すことにある。近年では、「ユニバーサルツーリズム」、「アクセシブルツーリズム」、「バリアフリーツーリズム」などと称し、高齢者や障がい者車などの移動弱者による観光行動を支援する方策が模索されている。
岐阜県高山市は、「住みよい町は行きよい町」を理念にかかげ福祉的対応による観光まちづくりを展開した。1995年から2010年の間に高山市外に在住する移動弱者を受け入れるモニターツアーを1、2回のペースで17回にわたり実施した。このモニターツアーの参加者は、延べ342人で支援者が138人であった。この当時、移動弱者を受け入れるための制度等はなく、モニターツアーを実施して手探りで課題を検証していった。そして、道路の段差解消や車いすトイレの設置、グレイチング格子を細かいものへの変更などのハード面、受け入れに対する住民の意識醸成を図りソフト面、と双方から整備した。モニターツアーは、回数を重ねていくうちに、移動弱者の観光行動を円滑にするための段差解消や施設整備から情報提供やPRなど誘客の方法に関することに変化していった。
観光まちづくりにおける福祉的対応は、観光客自身の年齢や身体的など困難な状況がひとり一人で異なることに留意する必要がある。例えば、身体的障がいにより車いすを利用する場合、歩道等の段差は彼らの移動の障害となる。それに対して視覚が不自由な人々は、歩道と車道の区別は段差により判断する。つまり、街中にある点字ブロックは、車いすを利用する人にとって段差であるが、視覚に障害を持つ人にとっては大切な道しるべとなる。したがって、ハード面の整備は、観光客の観光行動から発生する障害を小さくするはできても、全ての課題を解決することができない。その時に、困っている人を見かけたときに手を差し伸べるなど、ソフト面のサポートが求められるのである。そして、すべての人々が身体的な状態を問わず円滑な観光行動を可能となるよう必要な配慮や対応を自然と受ける状態を目指すことが福祉的対応として目指すことである。観光まちづくりは、ハード・ソフトの双方を地域の中から内発的に活動を展開していくことが肝要となる。
安本宗春氏