観光政策や地域創生に関与 JRグループの強み生かす
──社長就任後、約半年経過したが。
「6月28日に就任以降、毎日慌ただしく過ぎた。今まではJR東日本の鉄道営業や企画、販売に長く携わり、外からびゅうトラベルサービス(VTS)を見ていた。VTSは女性や若い社員が多く、みんな元気で活気がある。これまで先輩方が作り上げてきたVTSは、2017年9月に会社発足25周年を迎え、社員は600人を超える規模となった。今後は、社内インフラの整備や制度・ルールの見直しなどを進め、優先順位を付けて組織に合うような仕組みに変えていく」
──現在の取り組みは。
「旅行の予約形態は想像以上にリアル店舗からウェブにシフトしている。リアル店舗での強みを伸ばしながら、ウェブも伸ばさなければならない。そのためにウェブはスマホ対応を進め、旅行の比較サイト『トラベルコ』に参入するなど、新規顧客の開拓を進めている。また、地域への取り組みも始めており、17年4月には地域・営業戦略室を設けた。VTSのこれまで蓄積してきたノウハウを生かしながら、東北や上信越地方を中心に、自治体や地域の方々と一緒になってモニターツアーの実施や旅行商品の造成などにより送客を図っている。中でも、インバウンドには力を入れており、東南アジア方面へのレールパスの販売を強化するとともに、台湾の子会社である創造旅行社を活用しながらさまざまな商品作りを行っている。国内ではTRAIN SUITE 四季島の運行をはじめ高付加価値商品を強化し『贅なるひととき』をブランド化した。富裕層のニーズには大きな可能性を感じている」
──目指す組織は。
「旅行業は利幅の薄い業種であるが、セグメントごとのミッションを社員それぞれが共有し目標に向けて取り組むことにより、社員の成長が実感できる会社にしたい。現在は社員の7割がプロパー社員であり、今後はプロパー社員だけでも自立していけるよう強靭かつ筋肉質な会社にならなければならない。そのためにも、ウェブ販売の強化、店舗の多機能化を進めることはもちろん、JR東日本以外に西日本や北海道との連携を強化するなど、中期経営計画を着実に遂行していきたい」
──JR東日本の中でのVTSの立ち位置は。
「グループの中で旅行業、観光事業を専業として担う会社。旅行商品を『作る、販売する』事業を数年かけて進める。商品を作るという部分を一昨年にJR東日本から移管した。販売する部分はグループ一体となって行うとともに、今後は少しずつ移管していく。観光政策や地域創生にも積極的に関与し、営業エリアである東北や上信越、さらには北陸、北海道を元気にすることをミッションとして進めていきたい」
──ターゲット層は。
「現在大人の休日倶楽部の会員は約200万人。シニア層をターゲットに、年間を通してアクティブに動いていただける商品を企画していく。インバウンドはエリアパスの評価・認知は上がってきているが、旅行商品数はまだ少ない。海外の旅行博をきっかけに販売数を増やし、東日本エリアを広域に動いてもらえる仕掛けを展開していく」
──18年には栃木デスティネーションキャンペーン(DC)があるが。
「17年からプレDCが始まった。久しぶりに栃木を重点販売エリアとして取り組んでいる。『本物の出会い 栃木』をキャッチフレーズに、朝摘みのイチゴなど食や星空観賞、ダムツアー、歴史探訪など、今までにない素材を使った商品を作る。17年の信州DCでは前年比2〜3割増しで、プレDCも1割増しだった。信州での経験を元に、それ以上を目指す」
──ここ2〜3年での観光業界の変化をどう見ているか。
「パッケージ商品離れが若者を中心に進み、直販や海外OTAの台頭など、業界は荒波にさらされている。今後は、シニア、インバウンドのマーケット拡大が加速するだろう。消費もモノからコトへと変わっている。ニーズをキャッチアップするためにも、ウェブ販売などを拡大し、世の中の流れに対して柔軟性を持ちながら、輸送力や宿泊在庫を確保するなど増える需要に対応できる体制を作っていく。接続交通の整備への対処や人材不足に対するシステム化も必要になるだろう。人手を介さずに旅行できる仕組み作りなども進めていきたい」
──中・長期の計画は。
「17年3月に、20年に向けた中長期計画を作った。計画を毎年実現させていくのが私の役目。この計画を作った理由は、OTAの台頭やお客さまの趣向の変化、生産年齢人口の減少、シニアの拡大、インバウンドとりわけ東京五輪・パラリンピックでのFITの増加など、激しい環境の変化の中でVTSのビジョンをより具体的なものとするためだ。計画の中で、大きな柱は五つある。一つ目は、商品力の強化と新たな価値の創造。自由度の高い商品やサービスの提供として、オンラインでは移動と宿泊をセットにしたプランの提供、リアル店舗ではそれによらないコンサルティングの役割を強化する。二つ目は、JR東日本の強みを生かすこと。乗って楽しい列車の利用や5方面の新幹線を活用したVTSならではの旅行商品販売を拡大する。三つ目は、地域創生ビジネスの展開。自治体や地域と連携を強化し、特に東北エリアのインバウンドを増やしていく。四つ目は、シニア層への対応強化。大人の休日倶楽部などの高付加価値商品やファミリー層に向けた商品を増やす。五つ目は、持続的な成長と人材育成。ダイバーシティや働き方改革を進め、ワークライフバランスの推進、女性の管理職を増やすなど会社の基盤を作り上げていく」
【たかはし・ひろゆき】
【聞き手・長木利通】