地域と日本の伝統文化を守る
APAの旅館再生
──片山津温泉の高級旅館「佳水郷」を06年に取得し、再生に取り組んでいる。
「私の父でアパグループ代表の元谷外志雄は、加賀市の隣、小松市の出身で片山津温泉もよく訪れていた。過大な設備投資で立ちゆかなくなった時、同館オーナーの安宅社長は、できれば地元の人間に買ってほしいという希望を持っていた。旧知の安宅オーナーが心血を注いで守ってきた老舗旅館が、転売目的のファンドに買われ、最終的に安売り宿になってしまっては、地域も温泉文化も駄目になってしまう、元谷代表がそう判断して引き受けた。非上場のオーナー経営だからできた」
「05年に新潟県の妙高パインバレーを松下興産から取得し、リゾート再生に取り組み始めていた時期にも、ちょうど重なった」
──社名の由来は。
「APAは、Always Pleasant Amenityで、いつも気持ちの良い環境を、という意味。マンション事業でもホテル事業でも、環境に根ざした企業でありたいというのがアパグループのコンセプトだ。例えばアパホテルでは全客室に分別ゴミ箱を設置している。妙高パインバレーの取得・再生も、地域や雇用を外資などから守ること、買い手がつかずに大規模リゾート廃業の事態にでもなれば究極の環境破壊になってしまうことなどを勘案して決断した」
「佳水郷でも全従業員を継続雇用した。給与水準も守った。佳水郷では2年間出ていなかった賞与も別途支給し、スタッフに喜ばれた」
──具体的にやった事は。
「大規模なリニューアル投資で、露天風呂や露天風呂付き客室を設けた。露天風呂の新設は、安宅元オーナーの悲願であり約束だった。畳や布団も全て交換。テレビは32型薄型に入れ替えた」
「インターネット販売が無きに等しかったので、アパホテルから数人を着任させ、ネット販売を強化した」
──アパホテルの客室はネット販売が中心か。
「アパグループ全体のインターネット予約依存率は62%。そのうち直予約は3分の1。楽天トラベル、じゃらんnetなどが3分の2だ。直予約では、宿泊料が最大40%引きになる携帯特割、希望の部屋を指定予約できるAAA(トリプルエー)システムなどアパホテル独自の仕組みを構築している」
「佳水郷については、JTBなど大手旅行会社からの送客比率が70%と圧倒的に高い。ネットエージェントの販売比率が15%、直予約が15%というのが現状だ」
「やはりほぼゼロだったインバウンドも台湾・小松間のチャーター便客を中心に08年実績で5千人を集客した。アパグループ全体では08年に30万人のインバウンド宿泊客を受けている」
──宿の経営の引き継ぎは円滑に進んだのか。
「安宅家とアパグループでは当然カルチャーが違ったが、ハードへの投資なども進めるなかで、自然に融合していった。小松市在住の知人で、お茶とお花の先生をされていた古西さんという方をスカウトして女将になってもらった。これで女性スタッフが一つにまとまった」
──旅館再生は今後も引き受けるか。
「伝統文化を残し、地元に貢献するというビジョンは変わらない。改革途上にある佳水郷の再生にめどがついたら次の展開に進みたい」
【もとや・いっし】
96年に学習院大学経済学部を卒業、住友銀行に入行。浜松町支店、東京本部を経て、99年アパホテル常務に就任。04年11月からアパグループ本社専務。石川県小松市出身。37歳。