協会活動と日本の食のあり方
「食は命」食育に注力を 会員不在県解消が課題
──昨年の会長就任から1年、どんな年でしたか。
「料理業界にはいろいろな団体がありますが、当協会はどちらかと言いますとオーナーの集まりだと思います。私どもレストラン協会は、国交省・観光庁のご指導のもとで、外国からのいわゆるインバウンドのお客さまに、日本の安心・安全な食をおいしく楽しんでいただけるようにと設立されました。大切な諸外国からのお客さまにきちんと対応できることが日本の印象を良くしていただけることで、それらを再認識する1年だったように思います。加えて、一般社団法人への移行です。間もなく認可をいただけるものと思います。その際、協会の方向性ということは何なのかということを改めて考えたい。単なる飲食店の同業者の集まりではいけない。公益性を意識した運営、活動が求められていると思います。その一つが夏休みに全国の会員店で開催していただいている『親子体験食味学習会』の企画です」
──協会ならではの事業ですね。
「スローフードと食育の観点から始めましたが、非常に好評です。しかし残念なことに現在の日本はいろいろな食べ物がありすぎて、食に対する意識が全般的に低くなっている気がしてなりません。長い間のデフレの中で、安さばかりが注目されている現状に強い危機感を持っています。私は常日頃、衣食住の中では食が一番先頭に立つべきだと思っています。『食は命』なのです。TPOをわきまえた、きちっとした食事の経験を積むことはとても重要で、子どもたちに一流といわれる店で食事体験をさせてあげることは決して無意味ではないと思います」
──協会の課題は。
「現在、会員数は約250。全国に9支部ありますが、会員店が1軒もない、いわゆる不在県が十数県ある。例えば四国4県には会員店が1軒もありません。一刻も早く解消しなければならないと思っております。それが結局、会員増につながる訳です」
──加入メリットは?
「親子体験食味学習会に限らず、会員対象の食味研修会や経営者と女将のトップセミナーなどさまざまな行事を開催しており、大変楽しみに参加している会員がたくさんおられます。このような行事に参加いただいている方々は、加入のメリットを十分に感じていただいているようです。個人ではなかなか利用しづらい老舗店にもうかがえるチャンスがたびたびあります。そしてそれらの有名店のオーナーや料理長の話も聞け、勉強の場となります。調理士やマネージャークラスの研修会も好評です」
───協会ならではの取り組みというと。
「東北復興において、会員から『被災された高校生を私どもの店でお預かりし、何年か修行を積んで、故郷へ戻して差し上げることはできないだろうか』という案が出ています。被災地の商業の発展のためにも大変有意義なことだと思っています。当地の行政、教育委員会、政府の力添えも必要かと思います。また、当協会には賛助会員制度があります。この会員の方々にも十分なメリットを感じていただきたく、各社の販促ツールを作り、会員店に配るようにもしております。賛助会員さんとのお取り引きを密にしていただくのが狙いです」
──土俵は違いますが、「B—1グランプリ」などはものすごい集客力がありますね。
「B級グルメはもちろんあっていいと思うし、協会にも審査員として参加してくれというお誘いもあります。食でにぎわうことはとても素晴らしいことなのですが、中には沢山の添加物の使用の食べ物もあり、大切な子どもたちの体にとって好ましくないものもあります。有害なものはやはり体に入れない方がいい。地方色や、アイデアを凝らした料理で大変楽しいものですが、そのB級グルメが日本の食文化そのものになってしまったら取り返しのつかないことになるのではないかと心配しています」
「学校での講演会にたびたび参りますが、『子どもが3歳頃になったら、食事の手伝いをさせてやって下さい』と言っています。子どもたちは大喜びです。食べ物を意識することによって、『おいしさ』を脳が理解し、食に対する興味もわいてきます。日頃ジャンクフードを食べていた人にも一度は、会員店でのおいしさを体験してもらいたいと思います。親子体験食味学習会の本音は食育です。世界に誇る日本の料理が国内はもちろんのこと、訪日外国人の皆さまに絶賛していただけるよう、頑張らなければと思っております」
【おがわ・きんじ】
桃山学院大卒。1975年尾河(仏料理Le BENKEI)発足、85年グルメハウス(パティスリー・ベーカリー)設立、両社社長。02年から協会副会長。奈良県大和郡山市出身、67歳。