【観光業界人インタビュー】阿蘇市観光協会会長 稲吉 淳一氏


阿蘇市観光協会会長 稲吉 淳一氏

風評被害を払拭へ

官民挙げキャンペーン “安全性”をアピール

熊本県の阿蘇山(中岳)が噴火して3カ月がたった。火口からおおむね半径1キロ以内への立ち入りが今も制限されているものの、周辺の観光・温泉地はほとんどが規制の対象外で、普段と変わらず観光を楽しめる。ただ、一帯の旅館・ホテルでは宿泊キャンセルが相次ぎ、先の予約状況も芳しくない。地元では風評被害払拭に向けたキャンペーンを官民挙げて展開中だ。阿蘇市観光協会の稲吉淳一会長(阿蘇プラザホテル社長)に現在の状況を聞いた。

──阿蘇の現状を説明してほしい。

 「阿蘇山は活火山で、普段から活動を続けていたのだが、去年の11月25日に久々の噴火があった。およそ20年間、小康状態が続いていたのだが、活動が少し活発化しているのが今の状況だ」

 「昨年9月に御嶽山が噴火して、多くの犠牲者を出したことで、阿蘇の噴火もマスコミにセンセーショナルに取り上げられた。それにより、われわれ旅館・ホテルの宿泊キャンセルも相次いだ。熊本県では阿蘇だけが落ち込んでおり、この年末年始、お客さまは例年の2〜3割減少した。1月の宿泊統計を見ると、去年より1500人ぐらい入り込みが落ち込んでいる旅館もある」

 「外国のお客さまは、最初はかなり減ったのだが、日本人のお客さまに比べると回復は早い。そのためインバウンドを受け入れている旅館よりも、受け入れに積極的でない旅館の方が厳しい状況だ」

 「教育旅行は、私の旅館では4校、約800人分がキャンセルになった。私が『1キロ圏外なので大丈夫です』と学校に手紙を書いたのだが、保護者の方を納得させられないと、今年についてはキャンセルという形になった」

 「去年の8月30日から、噴火警戒レベルが2に引き上げられ、火口(中岳第1火口)からおおむね半径1キロ以内の立ち入りが制限された。そのため火口に行く阿蘇山ロープウェーは現在も運休している。ただ、『阿蘇スーパーリング』(火山を紹介する映像エンターテイメント施設)があるロープウェーの乗り場までは行けるし、『草千里』は約3キロ、温泉地は5キロ以上離れているので、お越しいただいても何ら問題はない」

──地元での風評被害対策は。

 「『くまもと阿蘇は元気です』と題したキャンペーンを官民で行っている。1月15日から3月15日までの期間中、『阿蘇山の火山活動が活発化しておりますが、熊本・阿蘇では安心して観光を楽しむことができます』とPRしている。具体的な内容としては、地域の観光施設や商店、飲食店で利用できるクーポン付きのパンフレットを発行したり、観光施設でスタンプを集めた人を対象に、宿泊券や特産品が当たる抽選会を行ったりしている。キャンペーンを宣伝しようと、県の宣伝部長の『くまモン』も各地で精力的に活動している」

 「キャンペーンの第2弾も2月から始めた。県外から南阿蘇村を訪ねた人に温泉券と500円分の商品券をプレゼントしている」

 「このほか、観光地の安全性をきちんと説明するための防災マップを作成し、以前に修学旅行に来ていただいた学校や、修学旅行を扱う旅行会社に配布している。地元の人以外には、阿蘇一帯の距離感が分かりづらいと思うので、このマップを使って『阿蘇は安全です』ということをアピールしている」

 「パワースポットがブームになっているが、うちの旅館では阿蘇山上神社近くに降った灰をパックに詰めて、パワーストーンならぬ『パワーサンド』としてお客さまにお配りしている。ご利益になると、皆さん大変喜ばれている。われわれ地元に住んでいる人間は、逆境も前向きに捉えてみんながんばっている」

──旅行会社にアピールしたいことは。

 「今回の噴火は21年ぶりで、めったに見られない光景をわれわれは今、見ていることになる。煙がもくもくと上がる様子は迫力があり、まさに『生きている地球』を体感できる。阿蘇は折しも昨年9月、世界ジオパークに登録されたばかり。ある意味、今が観光のチャンスと言える」

 「南阿蘇温泉郷は5〜10キロ、内牧温泉は10キロ以上、黒川温泉は20キロ以上、火口から離れており、噴火による影響はない。ぜひ、現地に来ていただいて、阿蘇の自然の雄大さを体感してほしい」

【いなよし・じゅんいち】

阿蘇市観光協会会長 稲吉 淳一氏

 
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