【観光業界人インタビュー・DMO成功への秘訣 12】秩父地域おもてなし観光公社事務局長 井上正幸氏に聞く


官民優劣付けず公平原則 10本挑戦し1つの成功を

 ──秩父地域おもてなし観光公社の立ち上げの背景は。

 「私は、秩父市の職員で公社には派遣で来ており、2度の出向を含めて観光部署に約20年いる。道の駅や観光協会の運営などさまざまなものに携わった。総務省の定住自立圏構想により、秩父地域1市4町で観光連携協定を締結したことをきっかけとして、秩父での滞在型観光の促進や外国人観光客の増加、地域ブランドの確立と販売促進を進めるため、新たな枠組みによる推進体制を提案し、承認後の12年4月から公社を立ち上げ、14年2月に法人化した。現在は、秩父市長を会長として、行政や観光協会、商工会議所、商工会、鉄道会社の代表で理事会を構成し、現場は私、マーケティング人材、プロモーション人材の4人を中心に連携をしている。1市4町の全てから職員派遣をいただき、事業を回している。地元も観光には積極的で、西武鉄道が観光誘致のCMを行うなど力を入れている。官民が協働して地域の観光を盛り上げている」

 ──公社の取り組みは。

 「SNSを活用した地域の情報発信や着地型観光商品の販売、教育旅行を中心とした民泊の提案、ガイド団体の取りまとめ、ロケーションサービスなどを主に行っている。組織を立ち上げる前は、マーケティングや観光商品造成、アンケート、SNSさえも行っていなかった。フェイスブックは12年7月から投稿を始め、今では投稿数が1万を超えている。担当者が好きな店やおいしい店を載せているが、苦情もなく地域に喜んでもらえている。また、公社は旅行業も取得して幅広い着地型観光商品も販売している。このほか、広域のレンタサイクルやアンケート調査の業務委託なども実施。レンタサイクルは、公社が自転車を購入し、地域内の観光協会や地元の自転車店と共に運営している。地域と共に金を巡回させる一つの方法だ。最初は難しいと思ったことも進めることでノウハウがたまり、新しい取り組みを始める際にもつながっている」

 ──インバウンドへの取り組みは。

 「西武鉄道と協力して公社が事務局となり、誰もが自由に参加し意見を交わせる『インバウンド政策コア会議』を始めた。さまざまな業種の業者が手弁当で参加し、地域がどうしたら良くなるかを議論している。参加者がプレゼンを行い、皆が良いと認めたものを実行に移している。例えば、台湾、フランス、アメリカ、タイの人たちを呼び込むため、参加業者それぞれが得意分野を役割分担して活動している。個々に観光事業を展開するのではなく、関係者が集まり知恵を絞り、当事者意識を持ちながら効率的に進めることができている。ただ、コンサル提案をするようなものは受け入れていない。一つ問題点を挙げるなら、規則のない、自由な会議なので、決まった事業の予算化が難しいこと。事業を現実化するのは私の役目だと思っている。ほか、西武鉄道の外国メディア放送の制作協力、観光施設従業員を対象とした英会話教室、Free Wi—Fi設置推進、台湾の修学旅行生の民泊受け入れ、なども行っている。ニーズをつかみ、観光整備とアプローチを行うことで受注につながっている。外国人が何を求め、どこで何の目的で金を使うのかを分析することが、成果につなげるためには必要だろう」

 ──運営していて大変なことは。

 「すべてにおいて我慢が必要。組織を立ち上げた際は、公社が全く認知のない状態から始まった。行政や観光協会が行っていないブルーオーシャン(未開拓の市場)は手間が掛かるものしかないが、そこをやらなければ公社の存在価値が上がらない。最初は、苦情の対応、観光団体の管理など、地域と話をしながら後方支援に徹した。また、地域が懐疑的だった民泊や長瀞のラフティングのプログラムの作成も、手間を掛けて理解を得てようやく進めることができた。民泊の募集は、最初は市報やビラで集まると思ったが、甘くはなかった。各家を1軒1軒歩いてしっかりと説明して回ったからこそできた。最初の受け入れ校の時は特に大変だった」

 ──広域連携はどう行っているか。

 「各所との調整は時間がかかる。秩父エリアでは秩父市が中心市となっているが、町の大きさに関係なく、行政、民間とも優劣を付けず公平が原則。協議を重ねた上で進める事業を決定し、各自が主体性を持って取り組むようにしている」

 ──組織の課題は。

 「将来を担う人材を増やすことだ。しかし、人材を増やすためには金が必要。事業費は公益性があれば、行政からいただくことはできるが、人件費は自分たちで稼ぎたい。昨年11月には地域商社を立ち上げ、商品仕入れ・管理・販売や地域のマネージメント、マーケティングを行い稼いでいく。理想論ばかりではなく、どうしたら稼げるかは常に意識している」

 ──今後の取り組みは。

 「民泊を取りまとめ、地域商材をしっかり作り、稼ぐ取り組みを実施する。また、事業運営を続けるには後継者を作らなければならない。利益を増やし、もう1人、2人と組織の中心になる人を増やして強い組織を作りたい」

 ──中、長期での目標は。

 「積極的にチャレンジしていきたい。他のまねをするのでなく、失敗を恐れずにチャレンジを続けて、10本やって一つの大きな成功を生み出したい。地域とのコミュニケーションを増やし、住民参加型の地域で稼げる仕組みを作り上げ、広域連携DMOでのナンバー1を目指したい」

「秩父夜祭」で行われた、外国人モニターツアーの様子

【いのうえ・まさゆき】
1991年、秩父市役所入庁。観光課、観光協会、道の駅などを経て、公社へ事務局長として出向。

【聞き手・長木利通】

 
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