「ダブりと漏れ」の解消を 外国人目線を事実に反映
――まず、DMOとは。
「公的な組織として観光協会があるが、地域振興の中心に据えて取り組むには体制、地域を観光の視点でマネージメントできる組織が必要となり、2年半前に観光庁でDMO制度の運用を開始した。二つポイントがある。『広げること』『経営の観点を持つこと』だ。多様な関係者を巻き込みながら力を持ち、経営としてデータの継続的な分析、データに基づく明確なコンセプトによる戦略、KPIの設定などに取り組む必要がある。昨年から正式な日本版DMOの登録も始まり、徐々に思想を広げている」
――DMOに対し取り組んでいることは。
「支援は大きく(1)資金(2)人材(3)情報―の三つ。資金面では組織の立ち上げから自立まで支援する内閣府の地方創生推進交付金がある。また、観光庁で今年から新たにインバウンド対策を支援する『広域周遊観光促進のための新たな観光地域支援事業』を開始した。人材面では講師、アドバイザーの紹介、専門スキルのある人のマッチング、人材育成研修を支援している。情報面ではDMOを運営する人などに向け、情報やノウハウを支援サービス『DMOネット』で提供し、相互連携の促進やマニュアル、事例集の共有を行い、能力の引き上げに取り組んでいる」
――成り立つためには。
「まず、どんな観光地域を目指すのかという大きな議論が先行しなければならない。議論をせずに方法論として、なんとなくDMOを作ってもうまくいかない。登るべき頂上のイメージ無しに、登り方だけ勉強しても続かない。ビジョンなど、何をすべきかを共有することが大前提だ。組織を成り立たせるには人材面、体制面での確立が必要となる。中心となる人材の投入、人材が空回りしないための応援体制、自治体のトップによる強力な支援などが大事だ。財源については、当初誤解があった。DMOは自立して稼ぐ組織というわけではなく、地域がどう稼げるかということをDMOが中心となり考えてほしい。DMOを中心に多様な事業展開やDMC的なことを実施するなども望ましい。自治体から継続的な財政資源を受けることも当然ある。受けるに値することを示すことは必要だが、必ずしも独立採算で自立しなければならないわけではない。ビジョンを持ち、広い関係者に理解を求めて協力を得ることが成り立つためのポイントとなる」
――課題は。
「日本版DMOとして特徴なく横並びになるのは良くない。いろんな発展形態がある。地方の実情など基本を押さえ、さまざまな形態で発展してほしい。良いと言われるDMOには共通点が四つある。(1)関係者の意見を反映できる『体制の整備』(2)調査結果などを有効に使える『データ活用の意欲』(3)プロモーションだけでない『観光資源の磨き上げへの執念』(4)『外国人目線をどれだけ考えられるか』―だ。DMOは、旅館・ホテル、交通など観光本流の事業者以外に、商工、農林漁業、アクティビティ、情報システム、さらに地域の住民と話し合う必要がある。熱意とスキルがある人材を見いだすこと、応援することはまだまだ課題だ。さらに、DMOを中心に地域の連帯感を強め、参加への理解を求め広げる必要がある。DMOが地域の中で誘客施策などの音頭を取り、類似施策の集約、無駄の削減、役割分担を行い、『ダブリと漏れ』を解消してほしい」
――欧米との違いとは。
「欧米を全て受け入れるわけではない。長く観光戦略を進めてきた欧米からまだまだ学ぶことがある。欧米ではマネージャーの確保、高度な分析調査による効果的なマーケティング、KPIを設定した経済の見える化、関係者との関係構築などに取り組んでいる。顔を行政だけに向けるより、KPIを駆使して関係者に説明しながら、地域参加型で情報の共有・活用による次のアクションを起こしてほしい」
――今後、DMOが行うべきことは。
「データを効率的に取り、戦略に生かさなければならない。企業経営にとって当たり前のことだ。設計をおろそかにして調査会社に丸投げにすると、詳細なデータは集まるが利用方法が分からず死蔵されてしまう。公開データを使用しながら、何が足りないかを考え、目的意識と仮説、マーケティングを行う強い意志を持って取り組んでほしい。また、顧客に対し顧客目線で本当に考え抜いているかが試されている。外国人目線、よそもの目線などと抽象的に言われるが、それをどう事業に落とすかが大事になる。外国人の感受性はなかなか分からないものと素直に思った方がいい。地域に住む外国人の力を借りるなど、多くの人にDMOの運動の輪に入ってもらい、心に響くような観光資源の磨き上げや誘客に取り組むべきだ。観光庁でも『外国人目線で本当に刺さる表現とは何か』を今年度からプロジェクトを立ち上げ検討を始めた。ぜひ注目してほしい」
――DMOを進める人たちに求めることは。
「DMOは、観光地域を経営するという面では新しい考え方に基づくもので、いわば、広い国民運動。新たな観光立国を目指す切り札となる。観光の意義として、経済面では成長戦略の柱、地域の発展の鍵、外交面では国際社会での日本のパワーなど言われるが、これらと並び、自らの文化、地域への誇りも挙げられる。訪れた人が地域の価値を再発見することは、地域の誇りとなる。地域全体を観光で元気にすることで地域の誇りを増強し、失われつつあった誇りの回復につながる。自発的に誇りが取り戻されれば、地域資源の磨き上げへの動きへと変わり、地方創生の好循環を生むきっかけとなるだろう。DMOが好循環の中核機能になることを、ワクワクしながら応援している。DMOは、観光庁の最重要施策の一つとして位置付けている。携わる人、目指す人と一緒に走っていく観光庁でありたいと思う」
※よねむら・たけし=1989年通商産業省(現・経済産業省)入省。経済産業大臣秘書官、同省製造産業局産業機械課長、中小企業庁長官官房参事官、島根県警察本部長(警視長)を歴任。2017年8月から観光庁観光地域振興部長。2018年8月から現職。
【聞き手・長木利通】