【観光立国・その夢と現実 11】特別地方消費税撤廃運動4 小原健史


 旅館業界は、平成の時代の初期に「特別地方消費税」という名称の、当時の自治省と各都道府県知事が重視していた地方税を撤廃した。では、なぜ、一業界であるわれわれがそのような大それたことを成就できたのか? その答えは〔国会議員〕対策にある。

 小学校でも習うことであるが〔法制や税制は国会で決める〕こととなっていて対策本部が最も注力したのは、その国会議員への対応であった。

 特消税と国会議員を語るとき、最初に上げるべき人物は、当時の山本一太参議院議員(現群馬県知事)である。一太先生のご尊父の山本富雄先生は参議院の幹事長等を歴任された有力な政治家で、三十数年前には全旅連会長にもご就任いただいた。私が青年部長として活動していた頃である。

 当時の富雄先生は、全旅連の理事会開催のたびに、私のくちばしが黄色い尖がった意見にも耳を貸していただき、鷹揚(おうよう)に接していただいた。(恐縮な表現ながら)会議が終わった後、わざわざ私を自席に呼んで「小原君、ようがんばってるな! いつか飯でも食おう!」とお誘いをいただいたことを思い出す。

 食事を一緒にする機会はなかったが、数年後に、富雄先生の意を受けた全旅連の橋本会長代行に呼び出され「小原君、山本先生が参議院比例区選挙に出馬しないか? 当選圏内の上位の順番を指定すると言われている!」と聞かされ大変驚いた! この時の要請は私の父小原嘉登次(当時佐賀県議会議長)の判断でお断りしたが、後年、森喜朗元総理から再びご推薦を受けて参議院選挙に出馬する十数年も前の話である。

 富雄先生は、その直後にご病気でご逝去され、ご尊父の葬儀後のあいさつ回り中のご子息の一太先生に初めてお会いした。そして、山本一太参議と全旅連のお付き合いが始まった。

 当時、まだ若かった一太先生は旅館業界のさまざまな会議の席で「私は全旅連青年部員です、業界の一心太助です」と言ってはばからず、われわれの政治的な課題は真っ先に一太先生に相談した。そこで〔特消税撤廃〕である。一太先生と特消税撤廃対策本部のわれわれはとことん腹を割って話し合ったが、決め手になったのは、やはり〔消費税導入で全ての物品税が廃止になったのに、なぜ、旅館や高級飲食店の旧料飲税が名前を変えて残ったのか? これは不当な二重課税ではないか?〕の考え方であった。

 この点の確認をしてからの一太先生の動きは速かった。自民党の税制調査会(税調)が開催されると毎回一番前列の席に仲間の若手議員とどっかと座り込み、お互いの課題の税制が諮られると大声で〔反対!〕とか〔賛成!〕と叫ぶ相互扶助方式である。年末の税調にはわれわれも自民党本部に集まり、税調の会議室の壁に耳をすり付けて何とか議事内容を知ろうとする。差配役の税調委員長が「特別地方消費税」について意見を問うや否や〔特消税撤廃!〕〔断固反対!〕と大声で叫ぶのである。当然、自治省側の議員は〔特消税存続!〕〔賛成、大賛成!〕とやる。われわれがいる会場の外にもかすかに声が漏れてくる。対策本部の仲間同士で「一太先生は今日も頑張ってくれてるなあ、ありがたい!」と震えるような感動に浸ったのであった。

 税調の議論は、結局は、賛否両論に分かれるといわゆる〔△〕で継続審議となる。毎年、毎回、この繰り返しであったが、一太先生がリードしていただいてからというものは旅館側の意見が強くなり〔旅館や料亭などの一部の業種を狙った不当な二重課税だ!〕という意見は自民党議員の全体に浸透していった。今、振り返っても法制や税制は国会で決まるのであるからわれわれの味方に”山本一太”という国会議員がいることは非常に大きかった。

 もう一つ、平成や令和の時代の〔ホテル税〕の不当性も今も昔も何ら変わらない! 観光客、宿泊客という交流人口に〔ホテル税〕という障壁を造ってどうするのか! 観光の都道府県が! また、黙視するなかれ。地元の旅館業界よ! 立ち上がるべし、再び!

 (佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター会長)

 
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