【観光立国・その夢と現実 14】特別地方消費税撤廃運動7 小原健史


 このコラムは、旅館業界が過去最大級の政治闘争を行った「特消税の撤廃」について記載を続けている。

 その最高潮の場面がついに来た。われわれは自民党幹事長の加藤紘一先生との最終交渉の時を迎えた。

 陳情の前に全旅連本部で政治面のチーフの針谷了氏と最終の打ち合わせを行った。「本部長、少しきつめの文章にしたが、これで良いだろうか?」と針谷氏が問う。陳情書に目を移せば最後の行に強烈な文字が並んでいた。〔…われわれは特別地方消費税を撤廃できなければ、自民党への支持をやめて旅館政治連盟を解散します!〕とあった。

 この文字にさすがに私も目をむいたが「針ちゃん、すごい! 分かった、これで行こう! われわれの後にはもう誰もおらんのと同じようなもんだから、われわれが軟化したら、この運動は負ける、終わる。尖んがるだけ尖がって行こう!」と言うや否や、全国から集まって自分の地元の国会議員に陳情を繰り広げている旅館業界の仲間とは別行動で最終交渉の場に向かった。

 この時期は、国会開会中で加藤幹事長は自民党本部ではなく、国会内の幹事長室におられて、既に数名の陳情者が並んで待っていた。しばらく待たされた後、われわれ旅館業の陳情となった。加藤幹事長が「次は、旅館業か! 担当副幹事長は誰だ!」と言われるや否や北海道出身の鈴木宗男先生と福岡県出身の太田誠一先生が同席された。

 私が「幹事長、今日、われわれは覚悟を決めて参りました。特消税の撤廃をぜひともお願い致します!」と言うと幹事長は「うん、あの税金ね、自治省と知事会が手放そうとしない…」と言いながら、突然、加藤幹事長の顔色が変わった。「おい、あんたらこの文章はなんだ! 俺は自民党の幹事長だよ! その俺に向かってこの文書はなんだ!」と指さす先は、事前にチェックした〔この特消税を撤廃しなければ自民党支援をやめます〕のくだりである。

 すかさず私が言う。「幹事長、われわれは本気だと言ったでしょう!」「なんだ!君、失礼じゃないか!」「幹事長、失礼なのは自民党の方じゃないですか! 選挙の前にはいつも耳障りの良いことを言っておきながら、われわれが一般消費税と二重で不公平な特消税の撤廃を何度お願いしても何も変わらん。もう70年も変わらんとですよ!」「そんな自分たちの言い分ばっかり言っても駄目だ。政治連盟を解散するとは自民党にけんかを売りに来たのか!」「冗談じゃなか。オイは地元じゃバリバリの自民党員ばってん、旅館業界の特消税対策本部長としては、まず、自民党ありきじゃなか。幹事長! 政党は他にもあるもんね。特消税撤廃ばしてくれる政党ば支持しても構わんとやが!」「貴様ーっ!」とつかみ合いになりそうなところで、鈴木先生が中に入り、私は太田先生から羽交い絞めのようにされながら幹事長室から引きずり出された。太田先生いわく「小原君、言い過ぎだ。それぐらいにしとかんね!」…交渉決裂である。

 超興奮状態の私は、どうやって国会から抜け出したかも分からないほどの態で、特消税撤廃最終決起大会の会場の赤坂プリンスホテルに着こうとしている。この後の決起大会で全国から集まった旅館業界の仲間にどのように説明するか? 進退が極まった! 思考回路がぐるぐると空回りするうち決起大会の会場に着いた。司会者が言う。「それでは、皆さん、特消税対策本部の小原本部長から自民党幹事長との直談判の結果が披露されます。本部長、どうぞ!」。登壇したところ、会場には約千名がいて、その仲間から拍手や歓声で迎えられた。

 私は言った。「皆さん、只今、自民党幹事長の加藤先生と談判をしてきました!」。会場は、急転してシーンとなった。私の次の言葉を待っている。私の口から「加藤紘一自民党幹事長と特消税撤廃で話がつきました!」(一番驚いたのは私自身である。話なんてついてない! 交渉は決裂したはずだ)。会場は、ウオーッという雄たけびに包まれた! その雰囲気にのまれて私は叫ぶ。「皆さん、地元の国会議員の先生に御礼の言葉を伝えて下さい!」と。私は日本一の大うそつきになってしまった。

 (佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター会長)

 
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