【観光立国・その夢と現実 16】平成時代の旅館業界のさまざまな課題 小原健史


 このコラムは前回まで旅館業の過去最大の政治闘争ともなった「特消税撤廃」の運動を詳しく記載したが、今回から、平成の時代の旅館ホテル業界のさまざまな課題について触れてみたい。

 それは、「公営宿泊施設の規制」「旅館業への風俗営業の適用」「大震災の際の旅館業の対応」「耐震診断と改修工事」「NHK受信料と団体割引」「旅館業厚生年金基金」等についてである。

 羅列して俯瞰的にみれば二つのことに気づく。一つは「特消税撤廃」や「公営宿泊」等は、〔旅館業界が法制的・税制的に不公平な扱いを受けていたこと〕、もう1点は、〔お客さまの命を守る重要な宿泊業であることへの自覚と対応〕である。

 まず、「公営宿泊施設の規制」の問題であるが、この前提として、私が全旅連青年部の幹部として東京の本部の親会の会議に参加していた時代に、必ず議題の一つになっていたのが「旅館業の過当競争」の問題があった。

 旅館業の歴史的な成り立ちは、江戸時代に街道沿いの旅籠や温泉湯治の宿などがあり、小規模で脆弱(せいじゃく)な資本力で営業を重ねてきたのであろうが、同じ場所で数軒の宿が軒を連ね、お客さまの袖を引き合うような体質がもともとあった。これは、まさに原始的な過当競争の姿であるが、太平洋戦争後、敗戦国の日本では臥薪嘗胆、丸裸の国民や国自体が言葉に尽くせぬ苦労に苦労を重ね、復興を成し遂げたが、その時代の中で、各地の温泉旅館や観光ホテルなどは次第に成長し脚光を浴びていった。その後、鉄道会社を主にして大きな資本力で質量ともに圧倒的な内容の宿泊施設も増加していき、従来の旅館相互の競争に加えて大資本との“過当競争”が業界の大きな課題となっていった。

 それに加えて、間隙を縫うように、中立・公平であるべき省庁が、その傘下の職員や家族が低廉な価格で利用できるという触れ込みで、競うように公的な宿泊施設を乱立していったので、過当競争の問題は最終的に「公営宿泊施設に対する規制強化」の問題に収斂(しゅうれん)していったとの見方もある。

 公営宿泊施設の問題ついては、永年にわたって対策本部長をつとめられた滋賀県の針谷了氏の功績が絶大である。その後継者の山形県の小関氏も幾度となく頭を持ち上げる公営宿泊施設の存続、復活の動きに対抗し尽力をされた。

 針谷氏は、特消税撤廃運動で培った政治家の人脈を駆使し、生来の政治的な勘と行動力で各官庁と渡り合い、また、特筆すべきは、全国を飛び回り公営宿泊施設の存在に悩み苦しむ現地の旅館ホテル経営者に親身になって対策を講じることを伝授し、その地方のデータをもって、中央で有力な政治家と談判し、最終的には平成12年5月26日に〔閣議決定〕で「民間と競合する公的施設の改革について」との表題で、公営宿泊施設の自粛を勝ち取ったことに象徴される。

 その前年の平成11年2月24日、針谷本部長は、衆議院決算行政監視委員会で参考人陳述を行い、「公的宿泊施設の役割は終わりました。不公平な競争で民業を圧迫しています。公平な競争をさせてください」、また「税金等公的資金の無駄遣いです。年金負担の増大を招きます」と堂々と公営宿泊施設の規制の運動の本質を述べている。

 公営宿泊施設(公共の宿)は、当時の中央官庁のほとんどが何らかの形で宿泊施設を所有していて、それは、「グリーンピア」「かんぽの宿」「メルパルク」「ハイツ・いこいの村」「KKRホテル」「公営国民宿舎」「全国市町村職員共済組合連合会・旅と宿」、等々であった。

 今、ここに列記した一つの名称の施設が全国的に散在どころか網羅するがごとく展開されたものもあり、公営宿泊施設対策本部の活躍で規制強化がなかったならばと思うと戦慄(せんりつ)が走る思いである。

 (佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター会長)

 
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