【観光立国・その夢と現実 26】東日本大震災と全旅連 1 小原健史


 本年3月11日、東日本大震災の11回目の追悼式が行われた。

 この大災害は地震と津波、そして原発の放射能事故というわれわれがかつて経験したことのない三重の大災害であったが、今後は、人智を集め科学的な対策と、住民への被災防止の情報の徹底や避難訓練などで地震や津波による被害が甚大にならないように、また、原発事故のような人災が二度と起きないことを切に祈念したい。

 私は、全旅連の直前会長として東日本大震災に深くかかわったのだが…、その日は、島根県松江市で「日本バリアフリー観光推進機構の年次総会」が開催されていた。その総会の途中で会場がざわつき始め議長役の中村元氏が「東北で大きな地震が起きたようだ」と発言された。皆が携帯のニュースに見入ると凄まじい映像が飛びこんできた。福島BFTCや仙台BFTCのメンバーをはじめ会場は次第に深刻な雰囲気になり、被災地のメンバーは急きょ、帰宅することとなった。

 私は、松江市から大阪へ移動し、学生の娘2人の転居のために家内と合流して引っ越し作業を始めた。そんな中、関西地区の旅館業界の中心人物である城崎温泉の西村肇さんから電話があり「小原さん、今回の大地震で東日本がやられたので、西日本のわれわれで対応策を考えたい。ついては大阪梅田のホテルに集合してほしい」とのこと。たまたま大阪市内にいたので翌日にそのホテルへ向かうとそこには、西村さんの他に針谷了氏や北原茂樹氏、岡本厚氏をはじめ関西を主とした約20名の旅館業界の幹部が集まっていた。東北の大地震の情報はテレビや新聞と同じ津波自体の情報が主で、各観光地、温泉地の被災の情報は全く分からない。全旅連事務局も相当混乱していて山形県出身の佐藤信幸会長は新幹線が止まり動けないという。

 その会合は、西村肇氏のリードで次々と対策が決まっていったが、その中で西日本地区から誰かを全旅連本部に派遣し、大災害の危機に対応し指揮をとるべしということになり、会場には前会長の私がいたので「小原さん、大変だろうけど全旅連本部へ行ってほしい」ということになった。

 東海道新幹線は動いたが、東京は大混乱でタクシーも拾えないと聞いたので、東京駅から全旅連本部まで歩くことにして、私はリュックサックとスポーツシューズを買い、すぐに新幹線に飛び乗った。

 東京駅に着くと、案に相違してタクシーは動いていたので早速乗り込んで全旅連に向かうが、途中の街並みは薄暗く人通りもほとんどない。行き交う車も少なく、コンビニは空の商品棚ばかりで、まさに”東京は死んでしまった”かのようである、事務所に着くと清沢専務、勝田事務局長はじめ数名の職員がいたが、既に何日か自宅に戻れない、戻らない職員もいるという。そうこうするうちに大きな揺れが。余震だ! 慣れない私は何かに捕まろうとするが、事務局の皆は平然と仕事を続ける。揺れには慣れた!ということか。

 佐藤会長からは電話で「国土交通大臣から〔被災者20万人を旅館ホテルに避難させてほしい〕との依頼があり、全旅連がこれを受けることになったので対応を」との連絡があった。

 清沢専務に「何からやろうか?」と聞くと、「まずは、20万人の避難に対応するために災害対策本部のある厚生労働省へ行きましょう!」と言うので、2人で災害対策本部へ向かった。本部では通常の見慣れた役所の様子は大きく様変わりし混乱していて、いつも全旅連を担当していた生活衛生担当の課長のデスクに向かったものの、全員がドタバタしていて落ち着かない。課長を何とかつかまえて、早速、被災者を中長期で旅館ホテルに受け入れることの意思を表明し、具体的な協議に入った。

(元全旅連会長)

 
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