【観光立国復活への提言】国連世界観光機関(UNWTO)駐日事務所代表 本保芳明氏(初代観光庁長官)に聞く


国連世界観光機関(UNWTO)駐日事務所代表 本保芳明氏(初代観光庁長官)

効率的な資源活用を インの鍵握る英語力向上

 ――新型コロナ禍で観光の在り方は変わったか。(聞き手・内井高弘)

 「旅行者の意識、行動の変化についていろいろなことが言われてきたが、基本的な行動様式はそう変わらない。パンデミックで国際観光全体の成長は頓挫したものの、本来の軌道に戻りつつある。ただ、科学的・実証的に検証して、コロナ禍のような出来事が行動様式に与える影響については把握しておくことは大事で、経験値として次に生かすことを考えたい。仕方がなかったという思考停止はよくない」

 ――大きな痛手だったが、政府はこれまでになく回復に力を入れた。

 「象徴的な出来事はGo Toトラベルだ。批判もあったが、巨大な予算を付けてまで観光・旅行を奨励したのは、いかに日本経済にとって重要かということを政治が認めたことに他ならない。これは画期的だ。観光業界はもっと自信を持っていいと思う。15年前と比べ、業界の地位は確実に上がった」

 ――新たな観光立国推進基本計画も策定された。

 「持続可能性を前面に押し出し、高く評価している。産業として発展し存在していくにはその副作用を抑え込む必要があり、政府としてそれを実現していくことを約束してくれた。先ごろ、世界経済フォーラムが日本の観光競争力は世界一と評価したが、それにふさわしい計画を示してくれた。日本の現状からすると、観光はGDPの10%、50兆円以上の規模の産業になるべきだ。計画を着実に実行し、こうした目標に近づいてほしい」

 ――今後の観光のキーワードを挙げるとすれば。

 「政策論的には持続可能性、そしてレジリエンス(回復力、復元力)の向上。この二つをちゃんとやっていかないと観光先進国にはなれない」

 ――現在の観光庁に対する評価は。

 「人、金というリソースの観点からは世界でもトップクラスの観光行政組織だ。政治の関心度、他省庁の協力度合いも高く、大きな仕事ができると思うし、それだけの責任もある」

 ――「省」に格上げすべきだという意見もある。

 「それも一つの選択肢だと思う。そのためには文化やスポーツ、環境などとのシナジーをどう高めていくかの議論も必要で、それを実現していくための手立てとして何が最適かということを考えるべきだ。省じゃなければ仕事ができないというわけではない」

 「観光庁はわが国の観光行政をつかさどる組織であり、もっとシンクタンク機能を発揮してほしい。日本の観光に対する国際的な評価は決して低くはないが、情報発信量が少ないのが気がかりだ。また、補助金のバラマキにならない効率的な資源活用を真剣に考えてもらいたい」

 ――情報発信量が少ないという指摘だが、国際観光を意識した時、観光庁がやるのか、それともJNTOが担うことになるのか。

 「国のレベルでいえば、情報発信はプロモーション機関でもあるJNTOがやるべき。ただ、その方向性とか、予算の問題など政策としての取り組みは観光庁がやる。JNTOは専門家集団、対して観光庁は政策集団。そこはきちんと押さえておくべきだ」

 ――少子高齢化、人口減の中で、それをカバーするのはインバウンド。量より質が求められているが、受け入れにあたって問題はないのだろうか。

 「日本の宿泊業の根本的な問題は英語が通じないということ。改善されてはいるが不十分だ。これは深刻な問題で、訪日外国人からは『英語で相手をしてくれない』『よくて片言で、疲れてしまう』という声をよく聞く。必然、英語が通じる施設に泊まるようになる」

 「今後、インバウンドが増え、お金を落としていくが、このままでは利益は外資系のホテルなどに吸い上げられてしまう。日本は労働力を提供しているだけになり、働き損となる。人材を育て、かつその人材を使える経営をして国際競争力をつけていく。そうしなければ生き残れない」

 ほんぽ・よしあき 1974年、運輸省(現・国土交通省)入省。2008年、観光庁初代長官就任。16年から現職。

 
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