観光庁が有識者会議の議論を踏まえて3月28日に公表した報告書「観光DX推進による観光地の再生と高度化に向けて」の内容を紹介する。今回は、宿泊業を中心とする「観光産業の生産性向上」の一部を掲載する。※報告書本文から抜粋し、一部を省略、変更している。
観光産業の生産性向上
◆現状・課題
1.生産性の低い経営・業務
(1)事業者における不十分な売り上げ・コスト管理 売り上げとコストのデータをデジタルで管理し、利益率や原価率、損益分岐点を把握した上で、販売プランや人員配置、仕入れなどの定期的な見直し、改善を通じた安定的な経営が求められるが、売り上げとコストのデータを紙台帳で管理しているなど、旧来型の経営、業務を行っている事業者が多い。売り上げ・コストなどの可視化が難しく、経営状況が把握しづらいため、競合他社との競争の際に経営状況を鑑みずに安価で販売してしまい、その結果、利益の圧迫や従業員の給与の引き下げなどの悪影響を及ぼすことがある。
(2)非効率的な予約・在庫管理 日々、予約やキャンセルの連絡が入ってくる宿泊事業者などでは、効率的な予約・在庫管理を行うことが望ましいが、いまだ紙台帳などで予約管理を行っており、効率が悪い事業者やデジタルツールを導入しているものの使いこなせていない事業者が多い。また、単に予約・在庫管理を効率的に行うだけでなく、商品・プランが購入されたタイミングや販売価格、購入に至らなかった商品・プランなどのデータを蓄積・分析することで、さらなる収益向上につながるが、このような取り組みまで行っている事業者はごくわずかである。さらに、販売チャネル、流通経路を増やすことで収益拡大につながるものの、販売チャネルの増加に伴う在庫管理の負担が課題となり、取り組みが進んでいない。
2.低い投資余力
観光産業の生産性向上を実現するためには、DXのための設備投資や、人材・従業員への投資が重要となるが、宿泊事業者などにおいては、収益力が低く投資余力が乏しいこと、経営者の投資意識が低いことなどに起因して、十分な投資が行われていない。
3.改善が必要な労働環境・待遇
労働集約型産業である観光産業において、経営資源の中で特に重要であるのが人材・従業員である。限られた人的資源を有効活用するべく、効率化可能な業務は見直しを行い、付加価値の向上に資する業務に人的資源を集中的に投下し、企業に利益をもたらすことが重要である。また、販売する商品・プランなどの価格増が必要となったとしても、付加価値の高いサービスを提供するために、従業員の待遇改善、満足度を高めることが大切な場合もある。しかし、現状、多くの観光関係事業者では、サービス提供の過程における従業員の作業時間の把握などができておらず、十分な業務効率化を図ることができていない。そのため、接客などの付加価値向上に資する業務や新商品開発などの収益向上に資する業務に人的資源を投下することができていない。
◆解決に寄与するツールと導入時・活用時の阻害要因
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